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ラジオドラマ脚本 003

タイトル【あおぞらに散骨】

広見(M)昨夜、病院の親父から連絡がきた。今日の午後の面会時間に来てほしいと。頑固な親父も気弱になったか。

N:病院の駐車場に車を止め、歩き出す。

広見「気が重いな。親父からの呼び出しは」

SE:ドアの開く音

広見「どう?具合は?」
弘道「今日は、気候もよくて最高だ」

N:窓から外を見ながら答える。親父さん

広見「食欲はあるの?なにか。食べ物でも、買ってこようか?ただし、酒以外」

弘道「お前も、死んだ母親に似てきたな。彼女に嫌われるぞ」
広見「嫌われるほど、持ててはいない。残念ながら」
弘道「俺に似てないな。確実に」
広見「くだらない。で、何の話なんだ」

SE:窓からさわやかな風が吹き込む。

弘道「持てないお前のせいで、この俺が、墓の心配をすることになると  は。 私が、生きてる間に、墓じまいをしてもらえないだろうか?」
広見「墓じまいって?なに?」
弘道「そうか、知らないか。」
広見「墓は、永遠だろう?」

弘道「墓もだれかが、管理をしないとならないんだ。今は、私がお寺さんにお願いをして、管理してもらっているが、私が死んだらお前がやるんだが」
広見「俺がやるの?この俺が?」
弘道「やるといっても、お寺さんに管理費を払うだけだがな。」
広見「やっぱり、金か。俺、持ってないよ。彼女と財力(笑)」

N:父親、深いため息をはく。

弘道「そのための墓じまいだ。死んだ後に、お前さんに迷惑をかけるのも心苦しいので、もう、お寺さんにたのんである。あとは、永代供養の手続きを
してほしい。お金は心配するな。」

SE:窓から吹き込むカーテンを揺らす風

広見「家って、めんどくさくせぇ!」
弘道「お前が、そういう考えなのは、解っていたんだ。だから、私が断ち切っておくのさ。誰も、来ない墓もかわいそうだからね。」
広見「そうか、俺の墓はなしか。まぁ、それも、一つの人生だね。親父さん!」
弘道「お前の人生そのものだ。」
広見「親父さん、楽しかった?」

弘道(M)楽しい人生か?どうだったかな?親父が生きてた頃は、何かと押さえつけられていたっけ。店を継ぐことになり、その後は、親父が死ぬまで、親父の奴隷だったような気がする。    

広見「そういえば、親父さん、なんで俺に、店を継ぐことをいってくれなかったんだ。」
弘道「お前に店を継がせたら、三日でつぶれるのがわかっていたからさ。」
広見「そうかな。」
弘道「親の感は、正しいものだ」

広見(M)親父さんの勝手な思い込みだろう。本気を出してないだけさ。

広見「墓じまいは、わかったけど、親父さんの骨は、どうする?」
弘道「そのことだか、一つだけ頼みがある」
広見「わかってると思うけど、金はないよ」

弘道「そこは理解してる。海に散骨をしてくれないか。契約はも交わして、供託金も振り込んであるので、お金の心配はしなくても大丈夫」
広見「親父さん、ロマンチックだね」
弘道「馬鹿にするなよ。これでも、若いときはぶいぶいいわせてたんだぞ」
広見「信じられないなぁ」

弘道(M)そう、信じられなくて当たり前か海に散骨。自分でも、そんな
ことを思いつくなんて、弱ってる証拠なのか。

広見「墓がないから、親父さんに嫁を紹介する時は、どうするかな?」
弘道「生きてるうちに、紹介しろ。」

N:広見の乾いた笑い声が病室に響く。

弘道(M)母さんが、死んで一人になった時口うるさい女だったが文句一ついわず、こんな私によくついてきてくれたもんだと思ったものだ。母さんの遺品を整理していたら、旅行代理店の申込書が…。

広見「あっ、母さんが死んだ時、なんかの書類が出てきたよね。もしかして、生命保険?まだ、残ってる?」

弘道「お前なその性格を直さない限り、彼女は無理だな。もし、保険であっても、わしがすべて使い切って、お前には、一銭も残さないよ。翌年の税
金が払えなくて泣きを見るのが想像できるからな」

弘道(M)銀婚旅行ハワイツアーの申込書だった。結婚当初は、貧乏の最
たるもの。ましてや、親父の店の手伝いの身で、給料なんてなし、休みは年末年始のみ、ブラック企業のはしりみたいなもんだ。行きたくても行けなかったよ。当時、トリスを飲んでハワイに行こうというCMがあって、母さんとよく行きたいねって、言い合っていたのを覚えていたんだとそのとき思った。母さんと行きたかった。本当のところ、私もね。時間は、戻らないもんだ。

広見「税金かぁ、高いよね」
弘道「ちゃんと、納税しろよ」

N:おやじさんとの面会の帰り道。

広見(M)そうだ、あの書類、家にあるはず、探してみるか。あのはぐらかし方がなんとなく引っかかるんだよな。

SE:携帯の音

広見「もしもし?親父さん、どうした?なに?よく聞こえないけど。落ち着
   けよ。よし、わかったから、今から、病室に行くよ。待っててくれ」

SE;病室のドアを開ける音

弘道「遅いぞ! おい!」
広見「どうしたんだよ。何があったんだ」

N:海洋散骨の最大手オーシャンセメタリー破産。無理な投資が原因か?経営者、行方不明状態。

弘道「散骨の業者が、破産した!」
広見「えっ? この間の話のやつか?」
弘道「もう、これで、死んでも死にきれなくなった。お前に、面倒をかけるわけにはいかないからな。この間の話は、無しにしてくれ。」
広見「親父さん、この間の話を聴いて、生命保険かと思って、家捜ししたんだ。そしたら見つけたよ。申込書とラブレター」
弘道「ばかやろう!何してんだよ!」

母親(M)お父さんに手紙を書くのは、初めかもしれないですね。いつも、遅くまでお仕事ご苦労様です。私の具合もよくないようなので、お願いが一つ。私が死んだら、ハワイの海に骨を蒔いて欲しいの。それが最後のお願い。お父さん、忙しいと思うけど、よろしくお願いします。本当は、あなたとハワイに行きたかった。そのために、へそくりの預金通帳も一緒においていきます。それと、広見だけど、なにがあっても、見捨てないでください。彼は、心根は優しい子です。だって、あなたの子供ですよ。私の子供でもあるけど。何があっても信じてあげて私は、遅くまでお仕事ご苦労様です。 あなたといれて、幸せだったとで、お願いが一つ。私が死んだら、ハワイの海に骨を蒔いて欲しいの。それが最後のお願い。お父さん、忙しいと思うけど、よろしくお願いします。本当は、あなたとハワイに行きたかった。そのために、へそくりの預金通帳も一緒においていきます。それと、広見だけど、なにがあっても、見捨てないでください。彼は、心根は優しい子です。     

弘道「読んだんだよな。」
広見「読んだよ。散骨なんて、おかしいと思ったんだよ。母さんの頼みだったんだ。親父さん、本気出すよ。」
弘道「そうか。ちょっと、遅いかもな。」 

SE:雷の音

N:弘道さん、散骨会社の倒産で、急激に衰え始めみるみる間に他界。

広見「親父さん、最後まで、俺の本気を見せられなかったなぁ。」

N:成田発、ハワイ行きの搭乗アナウンス。


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