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映画『ミスミソウ』
厳しい冬の寒さに負けず、雪の中でじっと春を待ち続けて早春に雪を割るように可憐な花を咲かせるミスミソウ。耐えた先に良いことがありそうなモチーフだが、この映画の物語とは全く違う。
舞台は田舎の中学校。生徒数は少なく、同級生はみんな幼馴染みだ。そこに都会から転向してきた少女は当然のように虐めの対象になっている。この設定が本当だとすれば地方に転向するのが恐ろしくなるが、単に出来上がったコミュニティに入れないから虐められているのとは違う。その謎が物語を引っ張る。
虐めは度を越してどう考えても犯罪になっているのだが、先生は登場すれども警察官はほぼ出てこない。放火殺人は重罪中の重罪だから、この映画を見て真似をしない方が良い。
漫画の映画化は小説以上に難しい。なぜなら、小説の場合と違って漫画は最初からイメージ化されているから、漫画の持つ世界観と映画のそれが異なった場合の拒否感が強いからだ。もっとも私はこの作品の漫画を読んでいないから問題ない。
どうやら漫画のスプラッター表現を忠実に映像化することがこの映画の重要な目標のひとつであったと思われるが、それは半ば成功していると言えるだろう。しかも雪の中で血糊を浴びての演技は撮影環境としはかなり厳しいはずだ。若いからこそ出来たことだろうか。
さて、ストーリーはと言えば、救いようのない残酷極まるもので、当然のバッドエンド。2時間掛けて一体何を見せられたのだろうかと考えてみても容易には思いつかない。
人と人との繋がりが希薄でどこか殺伐としてしまった現代は、雪が降り積もる世界のように冷え切っていて、温かい家庭なんて見せ掛けだ。もし本当にそんな家庭があったら抹殺してやるという残酷さを人間は秘めているということかも知れない。表面上は寄り添うような振る舞いがあれど、本当のところは分かって貰えていないという虚しさが世界を覆っている。
そう言えばリア充の対岸に生きる人が住むのはバーチャルな世界だ。その世界の住人はリアルから距離を置かないと生きられない。その結果、そもそもリア充自体が架空のものなのにあくまでリアルに見えてしまう。他人の芝生はとりわけ蒼いなんてことはないのだ。
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こんなバッドエンドな映画を見て劇場から出ると、きっと世界が今まで以上に輝いて見えるだろう。それはこれまで思っていたよりもハッピーな世界で、私達が日常という空気の中で忘れてしまっているだけなのだ。
その意味でこの映画は観る人にとってハッピーエンドなのかも知れない。
おわり
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