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マンション住まいの初心者でも使える数万円程度のお勧め3Dプリンタは?

 先日、知人から3Dプリンタを買おうかと考えているのだけれど、これはどうかと相談を受けた(↓)。

 3Dプリンタで何を作ろうとしているのか尋ねると、彼の中学生の息子が欲しがっているモデルガンだという。私もやっているApex Legendsというゲーム内に登場するウィングマンという銃で、3Dプリンタでパーツを印刷して組み立てたいと言ってきかないと言う。
 海外では3Dプリンタで実弾の撃てる銃を作った例があるのを知っていた私は彼の3Dプリンタ購入を全力で阻止した。
 少年の純粋な好奇心と夢を打ち砕くことになったかも知れないが、中学生の息子にナイフを買い与えていて、後に殺人事件となった最近のニュースが頭を過ぎったのだ。

3Dプリンタは簡単?

 冗談はさておき、ネット通販で3Dプリンタを検索すると実に沢山の商品が表示され、しかもこんな金額で買えるのかという値段のものも少なくない。
 ネット上には3Dプリンタ用の印刷データをダウンロード出来るThingiverseのようなサイトがあって、無料のデータも多いので、そういうデータを印刷するだけだったらすぐにでも出来そうに思えるのも頷ける。
 3Dプリンタで物を実体化させることを印刷と言うので簡単に出来る印象がありそうだが、実際は印刷と言うよりも加工だ。加工時間も数分ではなくて数時間という単位だ。加工にはそれなりの経験とノウハウが必要でなかなか上手く印刷出来ないことも多い。

素人にお勧めの3Dプリンタはある?

 先程の知人に聞かれたのは、マンション住まいの初心者でも使える数万円程度のお勧めはないかというものだった。
 私は即座にそんなのは無いと答えたが、あまりにも説明不足だと思ったので、ここで改めて考えてみたい。

家庭用3Dプリンタの種類

 家庭で使える3Dプリンタには2つの方式がある。ひとつは熱溶解方式、もう一つが光造形方式。それぞれの特徴を以下に示す。

熱溶解方式
材料    :PLC樹脂、ABS樹脂など (除湿保管が必要)
加工音   :相当うるさい (防音措置が必要)
材料のにおい:樹脂によって違うがPLC樹脂は比較的臭くない
作れる大きさ:大きなプリンタなら比較的大きなものが作れる
加工時間  :数時間から丸一日程度
加工物の表面:積層による段々が目立つ(フィギュアは無理)
問題点   :材料を押し出す加熱ノズルがよく詰まる
光造形方式
材料    :光硬化レジン、洗浄用イソプロピルアルコール
加工音   :静か 
材料のにおい:くさい (換気が必要とも言われるが人による)
作れる大きさ:同価格帯の熱溶解式よりやや小さい傾向
加工時間  :数時間 (1次加工後、洗浄と2次硬化が必要)
加工物の表面:非常になめらか (フィギュアに適)
問題点   :材料のレジンにアレルギーがある場合がある

 どちらの方式も一長一短で、短所を補う方法が無いわけではないので、機器の仕様だけで決めきれるものではない。
 どちらも家庭で使うには音やニオイといった厄介な点が多々あり、安易に手を出すと苦労することになる。余計な出費が嵩むことにもなる。
 こちらのサイトなどが選定時の参考になるだろう。

3Dプリンタは買った方が良い?

 家庭用3Dプリンタは素人が勢いで迂闊に手を出さない方が良いおもちゃ。逆にだからこそ面白いとも言える。スイッチ入れてポンッと望みの品が出てくる訳ではないところが趣味としては面白いのだ。
 家庭で使える価格帯の3Dプリンタを道具として使おうとすると不便で極まりない未完成の道具に過ぎないが、道具としてではなくて、聞き分けの悪い3Dプリンタを何とかして使うことを目的とするなら、とても楽しい趣味となる。だから、3Dプリンタでしか作れないものを作らなければならない人以外は夢の道具と誤解して買ってしまったりしない方が良い。

マンション住まいの初心者でも使える数万円程度のお勧め3Dプリンタは?

 この記事の題目である、「マンション住まいの初心者でも使える数万円程度のお勧め3Dプリンタは?」に対してそろそろ答えを提示しなければならない。
 私の答えは次の通りだ。

・3Dプリンタを道具として使うつもりであれば、悪いことを言わないからやめておきなさい。どうしても作らなければならないものがあって3Dプリンタでないと作れないというのなら別だが。

・3Dプリンタいじりを趣味にしたいのであれば、どの方式でも良いのでお財布が許す限りお勧めしたい。ただし、本体以外に掛かる費用もよく吟味しなさい。

というところかな。

購入する前の注意点と準備

 購入する前には、メンテナンス部品がいくら位して、どこで手に入るのかも調べておくと良い。特に熱溶解法方式のノズルは間違いなく必要になる。
 また、印刷データを作ったり加工したりするためにPCが必須だ。データ作成用のソフトウェアもあった方が良い。これらのソフトウェアを使うにはある程度のスキルが必要となる。プリンタ付属のソフトウェアもあるので、どんなソフトウェアが必要になりそうで、自分のPCでそのソフトウェアが使用出来るのか確認しておこう。
 PCで作ったデータを3Dプリンタに投入するためにUSBメモリが必要な場合もある(USBケーブルやWifiで接続出来る機種もある)。必要なものは予め用意しておこう。
 当然、材料も買っておいた方が良い。材料の保管場所や容器も必要だ。
 熱溶解式の場合は、稼働時に振動が大きいのでしっかりした台が必要だし、防音措置・工夫が必要だ。
 あと、何より重要なのが家族の理解だろう。
 金銭的なものもそうだが、場所を取るし音やニオイが気になるのは3Dプリンタを使用していない家族だからだ。夜通し稼働音がして眠れないなんてことがきっかけで夫婦喧嘩になっては元も子もないからね。事前の対策如何によっては近所からの苦情も覚悟しなければならない。

 ところで、3Dプリンタを買ったのかと後日彼に聞いたところ、買わないことになったという。ほっと胸をなでおろした私だったが、その後の彼の言葉に耳を疑った。
 3Dプリンタを買おうと言い出したのは彼の息子ではなく、奥さんだったと言うではないか。
 ゲームばかりやっている息子に少しは違った方向に目を向けさせるために3Dプリンタが良いのではと持ち掛けたそうだ。私の忠告のお陰で余計なものを買わずに済んで奥さんも喜んだのではと勝手に想像していた私の期待とは裏腹に、3Dプリンタなんて絶対やめた方が良いという私の進言のせいで奥さんの機嫌が悪くなったという。

 私が打ち砕いていたのは少年の好奇心と夢ではなく、知人の家族の絆だった。

おわり

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