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Netflix映画『終わらない週末』

 ニューヨーク・マンハッタンに程近いブロンクスのアパートメント。青く塗られた壁を背にヘッドボードが置かれたベッド。夫婦の寝室は広い。
 夫が朝早くに物音で目を覚ますと、妻が衣類をスーツケースに詰めて旅支度をしている。その様子を見た夫はベッドの中から声を掛ける。
 妻は、眠れなかったから、と言う。
 そして、急に思い立って海辺の貸家を予約したから家族で旅に行こうと。いつ予約したのだと聞けば、今朝だという。
 ネット時代は便利だが、妻の急な思いつきに突き合わされるのは困りものだ。

 車での長距離移動も、手が掛からない年齢になった兄妹はネットさえ繋がれば文句は無い。夫婦は日々の嫌なことを忘れて、のんびりとした早目の週末を過ごせるのが楽しみだ。
 借りた家は庭にプールが備わるモダンで大きな一軒家だった。さっそく子供らはプールに飛び込んではしゃいでいる。ネットがなくても楽しんでいる二人を見て妻は身を細める。やっぱり、無理して来てでも来て良かったと。
 近所のスーパーで買い出しをした後に訪れた近郊のビーチは、季節外れのお陰で人出は少ない。パラソルの下で海を見ながらの昼食は最高だ。

 単なる、都会に暮らす家族が過ごす休暇の物語ではない。なぜなら不可解なことが次々と起こるからだ。
 と言ってもそこはジュリア・ロバーツが主演だから、人が次々と殺される様なスプラッターではない。殺人事件ですら無い。しかし、家族は二度と元の生活には戻れなくなるのだ。

 演出の骨格は二人芝居にある。登場人物は複数いるが、そのうちの二人がフレーム内で語り合うシーンが多い。つまりストーリーの大半は対話のシーンで紡がれる。これが微妙な心理描写を実現している。そもそも、主役の彼女は人間が嫌いだと夫に公言している様なキャラ。表向きは社交的に振る舞っていても、二人だけになると不信感があらわになったりするものだ。
 人間というものの怖さや傲慢さ、それでも人を、そして、幸せな未来を信じることの大切さを、しっとりとシニカルに語りかけてくる映画だ。

 週末を舞台にした映画は週末に見るに限る。しかし、終わることが無い週末を迎えることを覚悟しなければならない。

 ところでこの映画、原題は「Leave the world behind」。物語の内容を掛け合わせて「終わらない週末」と訳したのは、なかなか上手い。

おわり


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