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映画『ビリーバーズ』

 新興宗教のプログラムの一貫で無人島で暮らす3人の男女信者。みんなのためにがんばりましょうと唱えることと、見た夢を嘘偽りなく告白し合うこと、そして地下の倉庫に積まれた段ボール箱を海岸近くのコンテナに運ぶことが毎日の修行。毒された社会から逃れ、安住の地を目指している。

 食料は先生によって除染され本部から届けられるもののみを口にすることが許されるが、なぜか日に日に届く食料が減って、ついには小麦粉と水のみになってしまう。仕方なく、海岸で採取した貝を入れ、海水で塩味をつけたパスタを作る。見るからに不味そうなそれは、この世に無いほど美味しく感じられた。

 現代の社会に見切りをつけて安住の地を目指そうというスローガンは、社会に馴染めず生きることに疲れた人々の心をとらえるだろう。オーム真理教をきっかけにそうした新興宗教は近づいてはならないものと思われがちだが、現在でも多くの新しい信仰団体が活動し信者を集めている。
 現在の価値観に背を向けながらも、社会を退けるのではなく社会に馴染んで生き続ける道を模索するのは、最終的な目標が社会転覆や集団自決でないとしたら別に悪いことではないだろう。
 ただそれでも、家族間の問題は解決すべき課題として残るから、話は簡単ではないが。

 豊かさに対するアンチテーゼという意味では、新興宗教もこの映画も同じことだろうか。コメディチックにしか見えないストーリーではあるが、それはこの映画もその中に登場する宗教も外から眺めているだけだからだ。
 物、食、住、性のどれをとっても溢れかえっている現代は、本来それらから感じうる最大限の喜びが希釈されてしまっていることは違いない。

 苦労してようやく手に入れた物。ひもじい中でようやく口にした食。ボロくても雨風がしのげる住。禁じられてこそ燃え上がる性。
 本当の喜びは豊かさ以外のところにあるのに、いつまでも満ち足りない欲望を充足させることばかりに目を向けるようになってしまった私たちは、そろそろ地に足をつけて生きる時代を迎えてもよいのかも知れない。

 そこに安住の地が・・・。

おわり


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