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春のオーロラに想うこと

極北はすっかり春になった。ついこの間まで雪と氷で覆われていた大地だが、今はもう5月の半ば。多くの鳥が南から返ってきており、春一番の花のクロッカスも咲き始めたところだ。

夏が近づくにつれて、白夜が始まろうとしている。今はかろうじて星がいくつか見えるほどだが、あと1週間もすると、星が全く見えない白夜の季節が始まる。

白夜とともに見えなくなるのが、オーロラだ。「オーロラは冬しか見えない。」そう思っている方も多いと思うが、実際は1年中宇宙で起きている現象で、季節や温度には全く関係ない。ただ地球では極地で起こる現象のため、夏の白夜の季節には、明るくすぎて結果的に見えない。実際にオーロラは春と秋がよく見えるものであり、今年の春もここカナダ・ユーコン準州のホワイトホースでは絶好調であった。

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(5月に見えた春オーロラ。カナダ・ユーコン準州のホワイトホースの街)

たまにではあるが、オーロラが大爆発し、通常は見えない地域でも見えることがある。例えば日本では北海道で、北米ではカナダのバンクーバーやアメリカのシアトルと行った地域で、ごく稀に低緯度オーロラが見えることがある。これはオーロラの原因となる太陽からの粒子(俗に言われる太陽風)がたくさん地球の大気に降り注ぐため、オーロラの活発なエリア(オーロラベルト)が大きくなった結果である。

北海道に陸別町という場所があり、ここでオーロラの観測が行われている。目では見えないほどの弱いオーロラを含めると、北海道では年に30回ほどのオーロラが観測されているらしい。ただ目に見えるオーロラの大爆発レベルとなると、発生頻度はもっと落ちてきて、2−3年に一度ニュースとなる位であろう。

今年4月には、オーロラが本当によく見えた。1週間ごとにオーロラが爆発していたのではないかと思う。我が家である森のゲル(テントの家)から100メートル離れた場所に小さな湿地が存在する。4月はまだ湿地が凍っており、オーロラが夜空を舞うのを何度か湿地の上で体験した。

(4月のオーロラ爆発の様子。オーロラタイムラプスではないリアル動画)

薄い緑色に見えるオーロラは、強くなるにつれて緑の色が濃くなって行き、ブレークアップとなった踊りだす際には、ピンクや白などの色が見えてくる。太陽からの粒子が地球上の大気にある酸素や窒素と衝突して発光しているらしいのだが、激しいオーロラを見る際は、科学的な説明がバカらしくなるぐらいの美しさだ。

私が初めてオーロラを見たのは、極北カナダにやってきた2004年のこと。その時に出会ったカナダ人の恋人に、オーロラを見せに行ってもらった。あいにくその時は弱いオーロラで、虹のようにぼんやりとした動きのないオーロラであり、さほどの感動もなかった記憶がある。(その時のカナダ人は今は妻となって10年以上が経つのだが、本当に人生何が起こるかわからない。。。)

その後この極北カナダのユーコンでオーロラガイドとなり、そしてアウトドアガイドとなって、自分のガイド会社を持つまでになった。2012年に起業をし、tNt Nature Connectionsの会社名でネイチャー&アウトドアツアーを行っていたが、今回のパンデミックで全てが止まった。

2020年の全てのツアーがキャンセルされ、最初はかなりショックであったが、時間が経つにつれてだんだんと心境も変わってきた。ポジティブに考えると、今までのライフスタイルや生き方を問う良い時間にもなったのではないかと思う。

ガイド業は季節ものなので、暇な時はほとんど仕事がなく、繁忙期は分身が何人も欲しいぐらいの忙しさだ。常に収入があるわけではない不安定な仕事のため、なかなか人を雇うのが難しい。またツアーの質を高く保とうと思うと、自分と妻二人で様々な業務を行うことで乗り切ってきた。

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(ハネムーンのカップルをご案内した思い出深いオーロラツアーの夜)

結果的に忙しい時には心も体もぐったりとするまで働き続け、オフシーズンに徐々に回復するというサイクルを過ごしていた。それがパンデミックの今は、皮肉にも自分の為に自然やアウトドアを楽しむことができる。お客さんにオーロラを見せたい、いや見せなければというプレッシャーから解放され、妻とアラスカン・マラミュート の愛犬テンシだけと見るオーロラは、今までのガイド時に見るオーロラとは全く気分が違うものだ。

人間界のパンデミックとは関係なく、オーロラは宇宙規模で発生する大自然の出来事だ。損得計算なしに星やオーロラを眺めることは、何とも贅沢な時間だと思う。極北カナダのユーコンには人がほとんど住んでおらず、街の郊外に行くとオーロラを眺めている人にはまず出会うことはない。夜空とオーロラ を独り占めできる世界だ。

このパンデミックがいつまで続き、将来の観光業がどうなって行くのかも未だに不明だ。コロナ後世界が以前のような世界に戻ったとしても、今まで通りガイドをして行くことができるのか。その時の気力と体力、そして財力次第だと思っているが、答えはなかなか簡単に出るものではない。

今すぐ出ない答えを無理矢理出すのではなく、ある程度流れに任せて、また時がくればその時にじっくり考えればよいだろう。それまではこの極北の大地で、白夜の夏のアウトドア、そして秋からはオーロラをまた楽しもうと思う。

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