⑧ 日常生活における論証2
日常生活における論証の代表的なタイプとして以下の2タイプが上げられます。
A 空には雪虫が舞っているからもうすぐ雪が降るだろう。
B お祭りはとても楽しかったのでまた行きたい。
この2つの論証は、Aは「理由づけ」が、Bは「データ」が蓋然的なものとなっています。これらを⑥で示した論証の構造にあてはめてみると以下のようになります。
<A>
空には雪虫が舞っている(必然的…具体的に提示できる)
↓ ← *雪虫が舞うと間もなく雪が降る *省略されている
↓ (蓋然的…自明の真ではない)
もうすぐ雪が降るだろう(蓋然的)
<B>
お祭りはとても楽しかった(蓋然的…具体的に示せない)
↓ ← *楽しいことは再びやりたい *省略されている
↓ (必然的…人間としての生理)
お祭りにまた行きたい(蓋然的)
Aの「理由づけ」である「雪虫が舞うと間もなく雪が降る」ということは、北海道の方々にとっては当たり前でしょうが、一般的には自明の真とは言えない蓋然的なものであります。Bの「データ」である「お祭りはとても楽しかった」ということは目の前に具体的に示せない蓋然的なものであります。だから、ABともに「主張」の説得力が低くなっているのです。
日常生活における論証では、これらの蓋然的なところを必然的なものに近づけていく必要があります。そのためにはどのようにしていけばよいのでしょうか。市川伸一氏は「私たちは、すでに知っていることをもとにして、新しいことをわかっていく。(中略)しかし、ややもすると抽象的な表現になってしまって、具体的なイメージがつかみにくい。これに対して、具体例をいくつか与えられてそこから帰納的にカテゴリー概念を形成することは、他の動物でも見られる。この両者を併用することによって、具体的な事例のイメージを保ちつつ、しかもどの属性に着目して概念が形成されているのかがわかることになる」(「わかりやすく伝える力を育てる国語教育」『言語
論理教育の探究』による)と日常生活における帰納と演繹(論証の構造のこと)の二重構造の枠組みを指摘しています。
例を基にして具体的に言えば、Aは「理由づけ」の、Bは「データ」の根拠となり得る経験的な知識(具体的な事実で根拠となり得るもの)を集積させ、そこから「理由づけ」や「データ」が帰納的に導かれたものとすれば、それぞれが必然的なものに近づき、それにともなって主張も必然性が増してくるということになります。
構造的に示せば以下のようになります。Aでは「理由づけ」の根拠となる具体的な数値データ等を複数位置づけ、そこから帰納的に「理由づけ」が導かれた構造にしました。Bは「データ」の根拠となる具体的な経験を複数位置づけ、そこから帰納的に「データ」が導かれた構造にしました。そのことによってそれぞれの前提の蓋然性が低くなり、「主張」に説得力が生まれてきたと言えるでしょう。
<A>
空には雪虫が舞っている(必然的…具体的に提示できる)
↓ ・過去20年の統計資料データ
↓ ・雪虫の性質や特徴
↓ ↓
↓ ← *雪虫が舞うと間もなく雪が降る
↓ (必然的なものの近づいた)
もうすぐ雪が降るだろう(必然的なものに近づいた)
<B>
・綿あめを買ってもらった
・金魚すくいで2匹すくえた
↓
お祭りはとても楽しかった(必然的なものに近づいた)
↓ ← *楽しいことは再びやりたい
↓ (必然的…人間としての生理)
お祭りにまた行きたい(必然的なものに近づいた)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?