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サタデーナイト・オンラインゲーム

「ちょっと遅れます、23時過ぎくらい」

予定してた22時半が近づきお酒を準備していると、グループDMの通知が鳴った。

いつもの仲間たちとのゲームの日。ここ数日悩まされていた仕事もようやく区切りがついて、今日は気持ちが追われることなく楽しめる。日本酒でも開けちゃおうか。

違う部屋から夫がワッと笑う声が上がった。職場の同僚たちとボイスチャットを繋いでゲームをしているのだ。土曜日の夜はそれぞれの仲間とゲームの予定があって、それぞれに楽しむのが我が家の恒例。

今夜も楽しそうでなにより。さて私もそろそろ始まるぞ。お歳暮でいただいたままつい後回しになっていた黄桜をピンク色のガラスのお猪口に注いだ。お猪口っていうのは少量しか入らないので飲み過ぎ防止になる。

何せゲームをしているときのお酒っていうのは危ない。ゲームに夢中になっているので無意識に口に運んでいる。敵にやられてから復活して再び動き出すまでのタイミングでごくり。これ飲んだ記憶なし。

加えてずっと座っているので自分が酔っ払っているのかあまり気づかない。1時間が経ってお手洗いに立つときに「あれ、飲みすぎた?」と気づくのだ。時既に遅し。

「こんばんは〜」
「「こんばんは〜」」

挨拶をするといつもの声が返ってきた。男女2人ずつ、4人で毎週土曜に集まるこの友人たちはオンラインで知り合って5年以上の付き合いだ。今日は1人まだ帰宅していないらしく、2人とゆる〜い近況報告が始まる。まるで居酒屋で会ったときのようだ。私はこの時間がなにぶん好きで、最近はゲームが口実になっているように感じることさえある。

「あ、帰ってきた」

しばらく3人で話しながらゲームをしていると1人がつぶやいた。少し経つとごそごそと音がして遅刻していた1人がボイスチャットにインする。

「お待たせしました」

最近、グループの中の2人は同棲を始めた。同棲と同時に付き合っていたことを知った残りの私たちの親戚のような湧き上がりようときたらなかった。私の夫も同じゲームをしていることから、3人とも交流がある。住んでいる場所はバラバラだけど実際に会ったこともあって、オンラインという細い糸だと思っていた関係性が年を追うごとにどんどん濃く太くなってきているような気がする。

「飲みに行った後はカップヌードルのチリトマトだよな〜」
「カップヌードルの味噌って食べたことないんだけど」
「うっそ、あれまじうまいよ。食べた方がいいよ」
「私シーフードは食べないかも」

どこまでも会話が居酒屋なのよ。楽しくて危うく日本酒を飲み過ぎてしまいそうだったのでチューハイに切り替えた。5%の安心感たるや。いやいや油断は禁物よ。

私たちが夜な夜なやっているゲーム『スプラトゥーン3』には『スプラトゥーン甲子園』という大会がある。オンラインや各地オフラインで行われる大会で、勝ち上がれば全国大会なんていう大規模なものだ。今回その関東大会に4人で応募することになった。大会に出られるかは抽選なのでまだわからないが、もしも出ることになれば何よりもみんなで会える。

「大会より打ち上げがメインみたいなところあるよね」

誰ともなく言ったこの言葉が全てだ。いつも通りの挨拶、何気ない会話を顔を合わせてできる日が楽しみだ。

「ありがとうございました、おやすみなさい」

ゲームを消して、今週もボイスチャットをそっと切った。

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