見出し画像

それは実質安楽死の容認なのでは~安楽死制度を議論するための手引き14

論点:京都地裁判決は実質的な安楽死の容認になり得るか

▼前回記事

 2023年3月5日、難病のALSを患う京都市の女性を、本人からの依頼で殺害した罪などに問われ無罪を主張していた医師に対し、京都地方裁判所は「短時間で軽々しく犯行に及び、生命軽視の姿勢は顕著で強い非難に値する」と述べて、懲役18年の判決を下しました。

 被告となった医師は無罪を主張していたそうですが、この判決の内容自体は、現行法を鑑みて、犯罪性を否定できる要素はなく、量刑の軽重は別として有罪は免れ得ないものでしょう。
 被告は控訴するようですが、大勢は決したと考えて良いかと思います。

 僕たちが論点とすべきはその先、今回の判決で京都地裁が示した「患者などから嘱託を受けて殺害に及んだ場合に、社会的相当性が認められ、嘱託殺人の罪に問うべきでない事案があり、それに必要な要件」についてです。
 以下、その要件についてNHKの記事から引用します。

【前提となる状況】
まず前提として、
▼病状による苦痛などの除去や緩和のためにほかに取るべき手段がなく、
かつ、
▼患者がみずからの置かれた状況を正しく認識した上で、みずからの命を絶つことを真摯に希望するような場合としました。
【要件1 症状と他の手段】
そのうえで、医療従事者は、
▼医学的に行うべき治療や検査等を尽くし、ほかの医師らの意見なども求め患者の症状をそれまでの経過なども踏まえて診察し、死期が迫るなど現在の医学では改善不可能な症状があること、
▼それによる苦痛などの除去や緩和のためにほかに取るべき手段がないことなどを慎重に判断するとしました。
【要件2 意思の確認】
さらに
▼その診察や判断をもとに、患者に対して、患者の現在の症状や予後を含めた見込み、取り得る選択肢の有無などについて可能な限り説明を尽くし、それらの正しい認識に基づいた患者の意思を確認するほか、
▼患者の意思をよく知る近親者や関係者などの意見も参考に、患者の意思が真摯なものであるかその変更の可能性の有無を慎重に見極めることとしました。
【要件3 方法】
また、患者自身の依頼を受けて苦痛の少ない医学的に相当な方法を用いるとしました。
【要件4 過程の記録】
そして、事後検証が可能なように、これらの一連の過程を記録化すること

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240305/k10014379911000.html

 この要件自体は、名古屋安楽死事件(1962年)、東海大学病院安楽死事件(1995年)の際に示された要件をほぼ踏襲したものではあるものの、この2023年に改めてこの要件が示されたことの意義は大きいのではないでしょうか。
 東海大学病院安楽死事件でも、この要件を厳格に満たした場合については「違法性は無いために阻却される(刑事責任の対象にならず有罪にならない)」とされており、今回の京都地裁の判決は、その判断を強化したものといえます。
 つまり今回の事件については、明らかに4要件を満たしていないため有罪は免れ得ませんが、逆に言えば、もっと時間をかけて丁寧に手順を踏めばこの4要件を満たすことができたかもしれません。そして、今後新たに安楽死を希望する方がいた場合に、これらの4要件を満たすことが可能なら、日本でも実質的に安楽死は可能になったと言えるのではないでしょうか。

4要件は本当に満たせるものか検証してみよう

 ではここからは、この4要件は本当に満たせるものなのかを考えてみましょう。

ここから先は

1,311字

¥ 200

スキやフォローをしてくれた方には、僕の好きなおスシで返します。 漢字のネタが出たらアタリです。きっといいことあります。 また、いただいたサポートは全て暮らしの保健室や社会的処方研究所の運営資金となります。 よろしくお願いします。