無許可美術展開催でベトナム当局が作品の焼却処分を命令⁈
本年7月、ホーチミン市アルファアートステーションで開催された画家ブイ・チャット氏の展覧会が八月になって必要な当局の許可を得ずに開催されたとして、政府政令第38号にもとづき、罰金2500万ベトナムドン(約15.6万円)の支払いと作品29点の焼却処分を命令された。
この事件はネットニュースや各紙で客観的に報道された。「作品は自分が産んだ子どもと同じ。罰金は甘んじて受けるが、作品の焼却処分までは受け入れられない」との画家自身のコメントを掲載するベトナムのメディアもあった。
9月に入ってホーチミン市文化局は作品の焼却処分を撤回し、罰金のみ課すことにしたと発表した。作品は焼却処分を免れた。
日本は戦前戦中の国家による検閲を許した反省から、戦後行政による検閲的な行為は禁止されている。美術品の展覧を規制したり、許認可を必要とすることはない。
ベトナムでは在留邦人の文化祭や写真展の開催であっても当局の許可を得て、作品の検閲を受けなければならない。反党・反政府的であるとみなされれば、そもそも作品の展示は許可されない。
無許可で開催すれば今回のように国が芸術家・主催者を罰することができる。
ブイ・チャット氏は反社会主義、反政府的な詩を発表してきた。2011年には出版の自由を守った人に与えられる国際的な賞を受賞して帰国した際に空港で身柄を拘束され、賞金とパソコンを没収されるという「前科」もある人物だ。
今回彼の個展で公開された29作品はどれも即興的かつ色彩も原色的な抽象画で、反党的・反政府的な要素は認められない作品だ。
にも関わらず、無許可で展覧会を行ったとして芸術的な活動を取り締まり、作品そのものを焼却するように求めるのは行き過ぎだったとベトナム当局も認めたかたちだ。
ベトナムは大臣クラスの汚職摘発、収賄者を逮捕して綱紀粛正に勤めている。一方で表現の自由の規制強化も目立つのが現状だ。
日本ベトナム友好協会機関紙「日本とベトナム」2022年11月号掲載