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婚約指輪を

前回の記事から2週間ぶり、こんなに書かずにいたのは初めてだ。仕事も家庭もかなりバタバタしていたことも理由だが、書きたいことがあまりなかった、つまり平穏な日々だった、ということもある。

自分の結婚生活について振り返ることが久々にあった。

毎年、この時期になると冬のボーナス時期を狙ってか、職場に提携のジュエリー店さんが訪問販売に来る。
ちょうど1年前、初めてその方が来られたときに、真珠のネックレスのリフォームをお願いした。冠婚葬祭用にと、かつて母からプレゼントされたものだが、私の首回りよりも長く、喪服等に合わせるとその先端がいつも服の中に入ってしまうのが嫌だった。
4玉外せば、ちょうどいい長さだと思います、との勧めにより長さを短くし、外した真珠でペンダントとブローチを作った。出来上がったものを母に見せたところ、大変喜んでくれたし、長男の卒業式、入学式でブローチを使うことができた。

ある日、若手の研修会によばれて自分の担当部分について説明していると、職場の上司であり、現在私にとって、異性として一番重要な存在である「先生」がふらっと入ってきた。
そして、
もうすぐ終わりそうですか。
と訊ねてきた。
いやいや、まだまだ終わりそうにないです。というか、今始まったところです。
早く終わらないとダメ?若手さんに用事が?
と今度は私が訊ねると、
いや、◯◯さんに用が。
と、私の名前を出してきたので、何か緊急案件でも持ち上がったのかと促されるままに別室へ行くと、件のジュエリー店さんが品物を広げていたのである。

昨年の真珠のリフォームのお礼方々、世間話やら宝石は高くて手が出せない、などとしゃべっていると、
婚約指輪とかリフォームされる方、多いですよ
と勧められた。

そう言えば、と、桐箱に入った婚約指輪のことを思い出した。ダイヤモンドの立て爪、というのか、あまり知識はないが、結納を行ったので婚約指輪を購入していた(2人の結婚指輪と婚約指輪を合わせたお金を夫と2人で折半したように思う)。
ご家族のお祝いごとなどの時につけられますよ、と言われたが、5歳年下の義理姉の結婚式は幼児と乳児を抱えての出席だったため、何かに引っ掛けたり、傷つけてしまいそうな指輪をつけようと思えなかった。
まあ、もともとアクセサリーの類に縁がなく、憧れはするが、実際につけると取れる、壊す、失くす、といった具合である。

婚約指輪のリフォーム自体は自分の中で圧倒的に賛成だった。使うことのない指輪をしまっておくのはもったいないな、と別居以前から常々考えていたし、それを今回勧められたダイヤモンドをペンダントトップ(鎖部分の購入は金額的に難しかった)にしてしまえば、仕事や子どもたちの祝い事の際に使える。
しかしこのタイミングで、となると、少し悩んだ。プラチナの買取相場を念のため検索しておくか、と「婚約指輪 買取」などで見てみると、やはり離婚、とか離婚前、というような言葉が出てくる。無駄に意味を持ってしまう行為にならないか、あるいはこのことが別居中の夫にバレて、ややこしいことになりはしないか、逆に先生に伝わって変なプレッシャーを与えてややこしいことにならないか、等、数分悩んだが、結局リフォームすることにした。

再びジュエリー店さんに勤務先に来てもらい、指輪の鑑定書や重量から台座部分の買取価格が決まり、ペンダントトップのデザインもすぐに決まった。ゴールドにするか、プラチナにするかで価格的に迷ったが、ここで数万円安くしたために後悔するのはちょっと、といつも通りの価格より価値優先の思考回路で、あっさり商談はまとまった。本当に良いカモである。

職場に残っている数人に、そこには先生もいたのだが、あっけらかんとジュエリー店さんとのやり取りの概要と「こんなのだから、お金が貯まらない」と私が笑い話にすると、別居していることや、別居の遠因が先生にあることを知っている数少ない同僚(女性、いつもとても優しい)が、
「リフォームしなくても△△さん(先生のこと)に買ってもらったらいいのに」
と、冗談めかして先生に話題をふると、
「いつでも買える準備はしていますよ」
と、悪のりしたセリフが出てくる。
公私共々、私の味方をしてくれているこの女性の同僚は、どうせ離婚するなら、先生と私がうまくいけばいい、と本気と冗談、半々くらいでこういう話題を出してくる。そして彼女はまだ、先生が既婚者であることを知らない。

一方、指輪を売ったの、と中途半端な内容で子どもたちに話しを切り出すと、3人とも焦って私の左手を確認する。婚約指輪の存在すら知らないので、結婚指輪を売ってしまったのか!と考えたわけだ。
違うの、冗談よ、使ってないダイヤモンドのついた指輪をリフォームするの、と説明すると、あまり興味なさそうにしていた。しかし、その指輪が結婚にまつわるものだとわかると、長男や次男は勝手に売っていいの?と心配そうにしていた。

まあ、夫とこの話題になるころには、2人の間で離婚の話が進んでいるのだろうし、婚約指輪を処分するわけではない。ダイヤモンド部分は活用するのだから、どんなにごねられたとしても、言い訳はできそうだ。
別居してからというもの、自分の意思で、あるいは子どもたちと相談して大きな買い物はしてきた。お金は相変わらず貯まらないが、自分で納得したものに囲まれることは、素晴らしい、と感じている。

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