母と私
退院してから今まで、私は
ほとんどの時間を母の部屋で過ごしていた。
昼寝も、YouTubeを見るのも、夜寝るのも。
今日、母に
「これからは自分の部屋で過ごしなさい」
と言われた。
ショックだった。
母は四六時中私の介護をすることに
限界が来たんだと思った。
私はただ、
今まで我慢していた分、
母に甘えられるようになったのが嬉しくて。
私の母は
悪い母親ではない。
私のことを愛してくれる、
いい母親だ。
でも、私がうつになる前の母は
とても厳しいひとだった。
自分の食器を洗うのを忘れた時。
冷房が入っている部屋のドアを閉め忘れた時。
学校説明会に上履きを忘れていった時。
あらゆるちょっとしたタイミングで
母は私に説教をしてきた。
普通で1時間、長ければ2時間から3時間、
もっと長ければ1日。
きっと、女手一つで私を育て上げてきた母は
私を早く立派な大人に成長させることに
必死だったのだと思う。
記憶のある小学生の頃から、
怒られない週はなかった。
それは高校生になっても同じだった。
むしろ、増えた。
進路のこと。
自分ではまだ
進みたい道が見えていなかった私は
母の提案するルートに乗っかった。
高校受験も、そのあとチャレンジしたことも。
それでも、母の求めるラインには
到底及ばなかった。
母の仕事は国際系で、
だから私もそのような進路を選択したのだが、
中学生で明確な将来像を描いて自己アピールし、
高倍率の留学プログラムに受かること、
毎日英語の練習をして、
TOEFLでいい点数を取ること、
すべて私には
もともとのキャパシティを超えたハードルだった。
だから、怒られた。
なぜあなたは自分で選んだ道なのに
努力できないの。
なぜ自分で決断できないの。
あなた、本当に
ちゃんと将来のこと考えてる?
ママが今まであなたのために出したお金、
タダじゃないんだからね。
その重み、わかっていて、それでこれ?
私なりに
頑張っているつもりだった。
学校でもいつも
学年上位の成績を取った。
学校と部活で疲れ果てた後
毎日英語の勉強をして
英検一級レベルの英語力を身につけた。
母は褒めてくれることもあったけど、
あくまでそれらの頑張りは当然と思っているようだった。
あと、母はフルタイムで働いていたから
家事のことでもよく怒られた。
ママが疲れて帰ってくるの、わかるよね。
なんでこんなに部屋が汚いの?
はぁ、余計にストレス溜まるんですけど。
学生だからって勉強だけしてればいいとでも思ってんの?
それでママは仕事も家事もあなたの面倒見るのも全部やらなきゃいけないの?
ママはホームキーパーさんじゃないんですけど。
それともなに、あなたが寝てる間に
妖精さんが全て解決してくれるとでも思ってる?
中でも私が特に怒られるのは
うっかり以前指摘されたことを
もう一度やってしまって
二度目のことを言わせた時だった。
「同じこと何回も言わせないで。
言うのだってエネルギー使うんだから。
ママだってあなたを叱りたくて叱ってるわけじゃないの」
というのが母の口癖だった。
私は母に言われて
小学生の頃から自分の机の前に大きな紙を貼って、
そこに教訓を書くようになった。
同じことを二度言わせないために、だ。
それでも二度言わせてしまったことは
太ペンでなぞって、赤マーカーを引いた。
それと向かい合いながら勉強をした。
だから、うつになって
入院して距離を取って
戻ってきたら母が優しくなっていたのが
嬉しくて嬉しくて。
多分私が入院している間
主治医との話を重ねて
病気についての理解を深めてくれたのだと思う。
晩御飯が用意できなくても、なにも言われない。
ただ寝ていることしかできなくても、
病気と闘っているんだね、と労ってくれる。
今まで機嫌を見てタイミングを伺わないと入れなかった母の部屋に
いつでも入れる。
リスカをしてしまったら
優しく手当てをしてくれる。
そのことが、本当に嬉しくて。
今までの厳しかった母も
私のことを思ってそうしてくれていたんだ。
そして、この優しい母が
本当の姿なんだ。
そう思った。
そんな私は
優しくなった母に
必要以上に甘えすぎた。
四六時中同じ部屋にいて、
わざと目立つ位置を切って気を引いて、
辛い苦しいと愚痴を吐いて、
タイミング構わずハグしてほしいとせがんで。
でもその関係性は
持続不可能なものだった。
本来の親子関係を取り戻したんだと思っていたけれど、
決して健全な関係ではなかった。
だから、私はもう一度
母との関係性を構築しなければいけない。
新しくて、愛があって、持続可能で、
何より二人とも心地よく過ごせる関係性。
そのために、今は我慢の時期。
私は私の部屋で過ごす。
母の仕事もプライベートも邪魔しない。尊重する。
ごはんや団らんの時間だけは一緒に過ごす。
そんな決意表明 note でした。
長くなってしまいましたが、
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
それではまた次回の投稿で。
るり
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