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たけし君の学級裁判

「先生!たけし君が学校にエッチな本をもちこんでます!」

ホームルームの最中、クラスメイトの芳子ちゃんが元気よく叫んだ。その隣で、たけし君がぷるぷると震えながら座っている。滝のように流れる脂汗は、まるでシャブ中のごとくだ。

「ばっ!バカ!僕がそんな、いかがわしい本を持ってるわけがないだろう」

「たけし君、本当ですか?」担任の麻理先生が、目を細めて問いつめる。麻理先生はいつもはとても優しいのに、怒るとこわい。彼女の大柄な体型は、見るものすべてを圧倒する。優しいときの麻理先生はさながらマザー・テレサのようだが、怒った瞬間はアブドーラ・ザ・ブッチャーになる。加工したカッターナイフを常時懐に忍ばせているのも、彼女がブッチャーと呼ばれる所以だ。

「天地神明に誓って言いましょう。僕はそんな、エッチな本なんて持ってません」

たけし君は堂々とした態度で言ってのけた。しかし、天地におわす全ての神々に誓ったたけし君のランドセルからは、オッパイを丸出しにした女の人の写真が顔を出していた。目を半開きにし大口を開けたその女の人は、僕に何かを訴えるようにこちらを見ている。

「ウソだよ。だってさっき、たけし君ほかの男子に自慢してたもん。『極秘ルートから手に入れたんだぜエ〜』とか言って。どうせお兄ちゃんに買ってもらっただけのくせに」

「たけし君。今ならまだ、先生怒んないよ」言いながら麻理先生は、ドスドスとたけし君の机に歩み寄った。「出しなさい」

「バカな!どうして僕が、エッチな本を持っている前提で話が進んでいるんですか。僕がそんなものを持っていないことは、この国の神々が周知なさっておられる。天之御中主神、風木津別之忍男神、天之菩卑能命」

「農業神はエッチな本を隠す悪い子を庇ったりしません!ほら、早く出せ!そりゃっ」

麻理先生はたけし君の両足を掴むと、凄まじい腕力で放り投げた。たけし君の体躯はくるくると回転し、5階の窓を突き破って落ちていった。

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