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Vol.10 - Jouska / Everything Is Good

Jouska
Everything Is Good
(2021)
P-Vine Records

今回紹介するJouskaは、エレ・キングに掲載されていたインタビューで知った。ノルウェーのユニットで、Marit Othilie Thorvikという女性ボーカルと、Hans Olav Settemという男性トラックメイカーの二人組みユニット。

ノルウェーの音楽と言えば、トッド・テリエとプリンス・トーマスくらいしか知らなく、二人ともディスコ・ダブ的なダンスフロア寄りのアーティストなので、こういったポップスの音楽を聴くのは初めて。敬愛する野田努氏の文章とインタビュー、そして初めて聴く音楽への興味によって引き込まれる形で購入に至り、内容的にも大当たりだった。

実は、自分は現代の打ち込みメインのポップ音楽は苦手分野で、「80年代のエレ・ポップと比較すると」ということになるのだが、ポップ要素(特に良い歌メロ)がとても少なく、シンセだけでやる必然性を感じない音楽が多いと思っている。例えばChvrchesなんてのが苦手。ボーカルの女の子が可愛いのと、珍しい形態だからやっているだけなんじゃないのかい?という穿った気持ちになってしまうのと、単純に彼らの音楽に心が全く動かない。なんだかただ鳴らしているだけだなとしか思えない。何故か。もちろん自分の問題なのだが。

Jouskaの鳴らす音は、そんな、なんとなくのエレ・ポップ的音楽とは大きく違った。そもそもエレ・ポップと呼んで良いのかもわからないのだが。

トッド・テリエの音楽にも感じる、何故その感じ今まで手付かずでやっていたかな!という気になるような、革新的ではないがどこか懐かしさを感じる不思議なポップ感がある。帯にも書いてあるように、ドリーム・ポップ的な要素も大きい。最近、このドリーム・ポップという言葉が自分の中ではキーワードになっているのだが、ローファイ感のあるバックトラックと、キラキラふわっとしたシンセの音、そして深めのリバーヴがかかったボーカルというスタイルには無条件で反応してしまう。そして、そんな夢見心地なサウンドに、この絶望的なジャケの顔と「Evertyhing Is Good」というタイトルという組み合わせ。とても不思議だ。

ちょっと話がズレる上に、北欧というだけで安直で申し訳ないのだが、NetflixのThis Is Popというプログラムで、スウェーデンの回を観た。実はアメリカのヒットチャートの音楽は、80年代から現代に至るまで、スウェーデンに牛耳られていると言っても過言ではないくらい、スウェーデンのプロデューサー達によってヒット曲が量産されているらしく、とても面白かったのでぜひ見て観てください。有名な話であれば恐縮です。個人的にはアバの次にようやくカーディガンズが生まれた!くらいの感覚だったので眼から鱗であった。

ちなみにフィジカル・リリースは日本だけとのこと。

A2: Because I Really Don't Mind

A1はこの曲のイントロみたいなものなので飛ばすが、この曲に彼らの魅力が全て詰まってると言っても過言では無い。とびきりポップなメロディーとシンプルなビートとふくよかなパッド。そして歌っているというよりは囁いているかのようなボーカルに1発でやられてしまった。ベースの音色もとても面白い。最初に聴いた時、彼女の悲観的な声色も含めて、天国のような音楽だなという印象だった。

A3: Beat Up Your Baby

ローテンポのほんわかポップス。牧歌的にも聴こえるのだが、そうはいかないのが彼らの音楽の魅力で、かと言って淋しげともならない。不思議だ。リズムの音色がエレクトロニカ的というか最早ドラムの音ではない。そして時折載るノイズが何故か気持ち良い。

A4: Pink

Doglover95という人とのデュエット。R&B感というのはこのボーカルのことか。このボーカルには確かに最近のヒップホップの感じがある。冒頭のオウテカのような、脳味噌を引っかかれたような不思議な音色のノイズでできたリズムが、これまでとは違い地の底に引き摺り込まれるような恐怖感を煽る。

B2: Bring You Back

これもR&Bぽいかもしれない。何というかとても歌っぽい。音色の少ないトラップ的と言ったら嘘になるが、そんな感触の物悲しいバラードのような曲。

B4: Lemon Twigs

アンニュイなギターのような音色と、ボーカルエディットと大仰なパッドにより、とてもスケールの大きな曲に聴こえる。キックの音もこれまでになくはっきりとしており、このアルバムのクライマックス的な曲。

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久々に「なんだかわからないけど凄く良い」という音楽に出会えました。

不思議なもので、よくわからないくせに、北欧というだけで何か魅力的で神秘的でも愛嬌のあるものを想像してしまいますが、実際彼らの音楽からはこの杓子定規的な不思議な魅力を感じました。

ちなみにノルウェーの森という曲がありますが、あれは完全な誤訳で、「Norwegian Wood」と複数形ではないので、そもそも森にはなり得ないのです。では何かというと、白木の家具=安物の家具という意味だそうです。これはただの豆知識です。

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