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Vol.6 - Herbert / Secondhand Sounds:Herbert Remixes

Herbert
Secondhand Sounds : Herbert Remixes
(2002)
Peacefrog Records

ハーバートは出始めた時にリアルタイムで聴けたアーティストで、ベーシック・チャンネルの後釜的レーベル、チェイン・リアクションのレコードのような、段ボール色の固めのジャケットに、phonoと書いてあるレコードが売っており何だろうと思って買ったのが最初だった(当時茨城の高校に通っていた自分は帰りに、柏のユニオンに毎日通っており、昨日なかったレコードでも気になるものは即座に買えていた。当時の高校生あるあるだが、もらったお昼代を、ランチを買わずにレコード代に充てていたので、当時は990円だった12インチであればかなり気軽に買えていた)。

買ってみたら大当たりで、奇っ怪なシンセ音と、至ってシンプルだけど聴いたことがないようなリズムの音の組み合わせで、そんなに速くないのにめちゃくちゃ走っているという、シカゴハウスとベーシックチャンネルのダブテクノの合いの子というか進化版のようなサウンドにこりゃ凄いと大いに驚いた。その後リッチー・ホーティンが展開していく、マイナス的なミニマルテクノの始祖的なものの一つであるとも思う。

このシングルよりも前に、Doctor Rockit名義でクリアからもリリースがあったようだが、そちらはエレクトロともまた違うもっと実験的な曲が多く、しっかり評価され始めたのはこのシングルからだと思う。卓球氏もラジオで、「Herbert、Advent、そしてSquarepusher!」と当時話題になっていたアーティストとして紹介していた記憶がある。

当時、おそらく世界初のロングインタビュー!という触れ込みでエレ・キングvol.9にインタビューが載っていたのだが、変態的な音とは異なり、とても知的で元はクラシックを学んでいたような音楽的素養もあるような人らしく、非常に驚いた覚えがある。しかし、その後のリリースは、音の奇怪さは保ったまま、ボーカルトラックなども含んだ非常に音楽的な楽曲が多くなっていき、その時のインタビュー内容に納得して行った覚えがある。

そして、今回紹介するのはそのハーバートがリミックスを施した作品をまとめたもの。CDだと2枚組で、レコードだと2セットのリリースであった。自分はジャケ違いに気づかなかったのか、1セットしか持っておらず、今回はその1セット分の紹介になる。それでもたっぷり3枚組の大容量で、作品への自信と心意気を感じさせられる。

内容的には、テクノやハウスでよくある、リミックスの名を借りた、ただのオリジナルトラックに近いものではなく、原曲をうまく生かした、ハーバートがプロデュース・アレンジし直したようなリミックストラックが多く、ぶっ飛んだトラックよりも変な音を使いつつも耳心地が良いサウンドで、天才だなと思えるような素晴らしいリミックス集になっている。

実は、リリースがピースフロッグからだったのが一番驚いた。当時はポール・ジョンソンのディープハウスぽいアルバムなどもリリースしたりなどしていて、もうピースフロッグはハードテクノなんてやらないんだろうなと淋しくなったのも覚えている。

A2: Ezio -Herbert Remix-

オリジナルはMotorbass。リミックス名義は、Matthew "Tight Pants" Hebert。Motorbassは当時とても話題になっていたのだが、自分は全く面白いと思わず、何が良いのかわからないままだった。しかし、このリミックスは本当に素晴らしい。しっかりとしたリズムと、ベースラインにフワッとしたキーボードのリフと、そしてハーバート節とも言える、変な音と原曲のサンプルの絡みが絶品で踊れつつも聴けてしまう。途中入るエレピも効いている。

B2: Highlife (Remember Herbert's Mix)

オリジナルはMono。リミックス名義はMatthew "Stereo" Herbert。前言撤回で、Everything But The Girlの「Baby, The Stars Shine Bright」に入ってそうなポップスであるオリジナルとは似ても似つかない、ジャジーハウスに生まれ変わっている。ボーカルのサンプルは使っているが、コードからベースラインから完全オリジナルのダンストラック。

C1: The Last Beat (House Dub)

オリジナルはHertbert自身。リミックス名義はMatthew "Mechanic" Herbert。ハーバートの傑作「Bodily Function」収録のジャズトラックをハウスへとリミックス。オリジナルでは、確か奥様であるDaniがボーカルを取っているので、こちらでもふんだんにそのボーカルは声ネタ的に聴ける。彼女の歌声は本当に気持ちが良い。

D1: Tape Measure (Herbert's Metric Mix)

オリジナルは、Doctor Rockit。リミックス名義はMatthew "Imperial" Herbert。Whooshというクリアから出ていたシングルに収録されているが、そちらにもこのリミックスしか入っていないので、実質これがオリジナルということかもしれない。Doctor Rockit特有の奇妙な音をうまく再配置しつつ、パッドがいい感じに乗るシンプル&ミニマルなリミックス。

D2: Future Luv (Herbert "did this" Remix)

オリジナルはPresence。リミックス名義はMatthew "Done That" Herbert。PresenceとはCharles Websterのプロジェクト名で、Doctor RockitのCafe de Floreで名リミックスを提供している。そのお返しと言わんばかりに、こちらでもハーバートがとても気合の入ったリミックスをしており、このレコード中でも一二を争う出来のナイストラック。

E1: Want Me Like Water (Herbert's Tension Dub)

オリジナルはFurry Phreaks Featuring Terra Deva。リミックス名義はMatthew "Like Milk" Herbert。これもCharles Websterがプロデュースした作品で、彼のレーベルLove from San Franciscoからリリースされたもの。がっつりとキックが主張するダンスものというよりは、Doctor Rockit名義の作品のようなリズムというか、何かドラムとは別の音でリズムを刻んでいるようなリミックスでひんやりとしつつ温かみがあるような感触がナイス。

E3: Fresh Start (Searching For Herbert's Mix)

オリジナルは、Terra Deva。リミックス名義は、Matthew "Stale" Herbert。 オリジナルはジャングルのリズム上で、ソウルフルに歌い上げる系の歌ものなのだが、こちらでも非常にDoctor Rockit的なリミックスを披露。しかしあそこまで無機質にはならずに、得意のエレピや歌うようなベースラインを駆使して、歌をそこそこ残しつつ、ジャズぽいリミックスに仕上がっている。

F1: Can't Take It (Herbert's Some Dumb Dub)

オリジナルはRecloose。リミックス名義は、Matthew "Outgoing" Herbert。カール・クレイグお墨付きのデトロイトの継承者的な扱いをされていたが、ファンクぽくなっていってしまったReclooseの初期作品のリミックス。オリジナルも相当良い曲でそれを超えているかと問われると疑問だが、このハーバートリミックスの方がダンスフロア向けになっており、良くクラブでも聴いた覚えがある。ちなみにカール・クレイグのリミックスもあるのだが、それも中々良い。

F2: Sing It Back (Herbert's Tasteful Dub)

オリジナルはMoloko。リミックス名義はMatthew "Milkman" Herbert。ポップ・ハウスユニットのようなイメージのあるMolokoですが認識あってますか?かなりヒットした曲なのでオリジナルはどこかで聴いたことがあるという人も多そうだが、このリミックスもとても良く、歌はまるっと残しつつ、バックトラックを完全に作り変える方式。一聴するとガチャガチャした音だが、とてもグルーヴィーで、初期作品にも似たハマり系のトラックと言えるかもしれない。

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なかなかダンスものは文章化するのに骨が折れましたが、このアルバムはリビングで聴くのにとても向いているなと改めて感じました。そして、どうにかして、もう1セットも手に入れたいなと。

ちなみにハーバートは、この当時からインスタレーション的なライヴを行ったり(紙をハサミで切る音や、野菜を切る音、ワインをかじる音などをその場でサンプリングして弾いたりする)、ビッグバンドと一緒にライヴをやったりとクラブミュージックに捉われない音楽性で本領発揮していきますが、どれもとても良いです。Wishmountain名義では、スーパーマーケットの食材や商品の音だけで作ったアルバムを数年ぶりに作ったりもしました(ただしこれは実験的すぎる内容でした)。

おそらく、彼の場合はダンスやクラブがどうのというよりも、自分のやりたいことを音楽に落とし込んだ時にたまたま、ダンス好きやクラブ好きが好む音になったという感じなのではないかなと思ってます。

豚の誕生から、飼育、屠殺を経て焼いて食べるまでの音をサンプリングして作ったアルバムなどもあり、彼は現代アート的な作品を目指しているように感じます。

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