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不条理短篇小説

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現世に蔓延る号泣至上主義に対する耳毛レベルのささやかな反抗――。
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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ六~河童vs家電量販店~」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ六~河童vs家電量販店~」

河童だって音楽が好きだ。文字どおり、音を楽しんでいる。といっても、川のせせらぎとか鈴虫の鳴き声とかじゃなくて、普通に人間の好む音楽を河童も聴く。エミネムとか。NO MUSIC,NO KAPPA LIFE.

ただしイヤホンがすぐ駄目になるので困る。河童は年がら年中濡れているから。むしろ乾いたら死ぬ。特に耳は急所ヘッドソーサーに近い場所だから、乾いたら致命傷だ。

かつてイヤホンを防水加工しようと思

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ五」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ五」

今日は八百屋のおっさんにきゅうりで殴られた。売りもので殴るなんてどうかしてる。ちなみに二刀流だった。

しかもきゅうりが僕の大好物だってことを、八百屋のおっさんはもちろん知っている。となると、「わざわざ相手の好物を用いて殴る」という行為は、果たして厳しさなのか優しさなのか。「どうせ殴られるなら、自分の好きなもので殴られたい」という気持ちが、人間には存在するのだろうか。「どうせ溺れるならプリンの海で

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新語流行語全部入り小説2015

秘技アゴクイと切れ目のない対応で結果にコミットする上級国民のプロ彼女と、風呂上がりに全裸で腰を屈めた五郎丸ポーズで「安心して下さい、穿いてますよ。」と言いつつ毎度穿いてない、というルーティンを繰り返す自称ミニマリストの下級老人との恋愛関係は、夜空に輝くスーパームーンのもと未曾有の存立危機事態を迎えていた。

男女の組み合わせに謎は多い。そもそも、金とプライドに生きるプロ彼女である朱美が、なぜあえて

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悪戯短篇小説「ウーピー対ゴールドバーグ」

悪戯短篇小説「ウーピー対ゴールドバーグ」

賛成派の筆頭がウーピーで、反対派の筆頭がゴールドバーグだった。もはや何について賛成し反対しているのかは、誰にもわからなかった。とりあえずウーピーはコーヒーを、ゴールドバーグは野菜ジュースを飲んでいる。

ゴールドバーグがストローを加えた隙に、ウーピーが声高に主張する。

「我々が正しいことは、すでに明々白々であります。その証拠にほら、ゴールドバーグ氏は、先ほどからストローなんぞで飲み物を飲んでおら

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ四」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ四」

「河童も恋をするの?」という質問を近ごろよく受ける。芸能人が立て続けに結婚を発表しているせいだろうか。YES,もちろん河童だって恋をする。カラオケに行けば、渡辺美里の「恋したっていいじゃない」も歌う。「MAJIでKOIする5秒前」は歌ったことがない。それは別に河童が恋をしないというわけではなくて、単にちょうど恋する5秒前にカラオケボックスにいたことがないってだけの話。たいてい気づいたときには、もう

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ三」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ三」

僕ら河童は漢字で書くと「河」の「童」ということにいつの間にかなっているが、これも河童がこうむっている風評被害のひとつである。河童だからといって、もちろん「童=子供」ばかりなんてはずはなく、河童にもジジイやババアはいる。最近はむしろそっちのほうが多いくらいで、河童業界もご多分に漏れず高齢化社会なのである。少子化問題が日々深刻さの度合いを増している。

それでも河童に「童」の字が当てられているのは、そ

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ二」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ二」

今日は人間の友達の家へ遊びに行った。彼の家へ行くのは初めてだった。家にあがるやいなや、人間の女にすこぶる嫌な顔をされた。友達の母親らしかった。一瞬にして花柄のスリッパをビショビショにしてしまったからだと思う。河童なのだから当然だ。河童を家に呼ぶならば、それくらいは想定内であるべきだろう。

そう言いたいのはやまやまだがグッとこらえて僕は「すいません」と心を無にして謝った。

「なぁんだ、ちゃんと謝

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ一」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ一」

朝起きたらヘッドソーサーにうっすらカビが生えていて抜群に哀しかった。テレビのニュースであまりに熱中症熱中症言うものだから、警戒しすぎて寝る前に皿を経口補水液で濡らしすぎたせいだ。CMで所さんにまで言われたら濡らすしかない。あの人熱中症でいくら儲けたんだろう。

「経口」だというのに口を経なかったのがいけないのか。仕方がないので歯ブラシで皿を擦ってみたが、どうせ捨てるからとホテルのアメニティのを使っ

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