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不条理短篇小説

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現世に蔓延る号泣至上主義に対する耳毛レベルのささやかな反抗――。
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2015年10月の記事一覧

悪戯短篇小説「ウーピー対ゴールドバーグ」

悪戯短篇小説「ウーピー対ゴールドバーグ」

賛成派の筆頭がウーピーで、反対派の筆頭がゴールドバーグだった。もはや何について賛成し反対しているのかは、誰にもわからなかった。とりあえずウーピーはコーヒーを、ゴールドバーグは野菜ジュースを飲んでいる。

ゴールドバーグがストローを加えた隙に、ウーピーが声高に主張する。

「我々が正しいことは、すでに明々白々であります。その証拠にほら、ゴールドバーグ氏は、先ほどからストローなんぞで飲み物を飲んでおら

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ四」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ四」

「河童も恋をするの?」という質問を近ごろよく受ける。芸能人が立て続けに結婚を発表しているせいだろうか。YES,もちろん河童だって恋をする。カラオケに行けば、渡辺美里の「恋したっていいじゃない」も歌う。「MAJIでKOIする5秒前」は歌ったことがない。それは別に河童が恋をしないというわけではなくて、単にちょうど恋する5秒前にカラオケボックスにいたことがないってだけの話。たいてい気づいたときには、もう

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ三」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ三」

僕ら河童は漢字で書くと「河」の「童」ということにいつの間にかなっているが、これも河童がこうむっている風評被害のひとつである。河童だからといって、もちろん「童=子供」ばかりなんてはずはなく、河童にもジジイやババアはいる。最近はむしろそっちのほうが多いくらいで、河童業界もご多分に漏れず高齢化社会なのである。少子化問題が日々深刻さの度合いを増している。

それでも河童に「童」の字が当てられているのは、そ

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ二」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ二」

今日は人間の友達の家へ遊びに行った。彼の家へ行くのは初めてだった。家にあがるやいなや、人間の女にすこぶる嫌な顔をされた。友達の母親らしかった。一瞬にして花柄のスリッパをビショビショにしてしまったからだと思う。河童なのだから当然だ。河童を家に呼ぶならば、それくらいは想定内であるべきだろう。

そう言いたいのはやまやまだがグッとこらえて僕は「すいません」と心を無にして謝った。

「なぁんだ、ちゃんと謝

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悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ一」

悪戯短篇小説「河童の一日 其ノ一」

朝起きたらヘッドソーサーにうっすらカビが生えていて抜群に哀しかった。テレビのニュースであまりに熱中症熱中症言うものだから、警戒しすぎて寝る前に皿を経口補水液で濡らしすぎたせいだ。CMで所さんにまで言われたら濡らすしかない。あの人熱中症でいくら儲けたんだろう。

「経口」だというのに口を経なかったのがいけないのか。仕方がないので歯ブラシで皿を擦ってみたが、どうせ捨てるからとホテルのアメニティのを使っ

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