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善く戦う者は人を致して人に致されず

『孫子』 虚実篇

●「戦上手は、相手の作戦行動に乗らず、逆に相手をこちらの作戦行動に乗せようとする」
と、こんな意味になるかもしれない。つまり、相手をこちらのペースに乗せること、換言すれば、主導権を握ることが勝利への近道なのだという。

●言うまでもなく、『孫子』はこれを戦いの駆け引きとして説いているのであるが、交渉の戦略としてもそっくり妥当する。

●では、主導権を握るにはどうすればよいのか。
 それにはまず先手必勝である。先手、先手と布石し、とくに双方の必争点に先着しなければならない。

●『孫子』は、こう語っている。
「敵よりも先に戦場におもむいて相手を迎え撃てば、余裕を持って戦うことができる。逆に、敵よりおくれて戦場に到着すれば、苦しい戦いをしいられる」

●余裕を持って戦えるという点が大きいのである。心に余裕があれば、判断力もさえてくるし、あらゆる事態に冷静に対処することができる。これが先着の利点だといってよい。

●では、先着できなかったら主導権は握れないのか。そうではない。
『孫子』は、こう語っている。
「敵に作戦行動を起こさせるためには、そうすれば有利だと思い込ませなければならない。逆に、敵に作戦行動を思いとどまらせるためには、そうすれば不利だと思い込ませることだ。したがって、敵の体制に余裕があれば、手段を用いて奔命に疲れさせる。敵の食糧が十分であれば、糧道を断って飢えさせる。敵の備えが万全であれば、計略を用いてかき乱す」

●要するに、主導権を握るとは、作戦選択の幅が広いということにほかならない。こちらは行動の自由を確保し、相手を身動きのできない状態に追い込んでいく。

●相手と向かい合う前に主導権を握っておくことが、交渉を成功させる秘訣なのである。

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