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忍耐とは、希望をもつ技術である

フランスの哲学者 ボーブナルグ

●十八世紀フランスのモラリストの言葉だが、忍耐ということも立場をかえて考えてみれば「希望をもつ技術」といえると説く。苦しみに耐える、と考えれば人間はつらいが、希望をもつ技術を学んでいると思えば苦にはならない。逆転の発想である。

●ボーブナルグは貴族の出身で、若い頃から軍人生活をおくっていた。もちろん高級士官である。ところが彼は三十歳代に入って天然痘を患ってしまった。闘病生活がつづき、ようやく治ったが、天然痘のあとは「若き貴族士官」の心情と誇りを強く傷つけてしまった。

●この体験がボーグナルグに「忍耐」を教えるのである。退役した彼はパリで不遇な生活を余儀なくされてしまった。しかし、この時代に彼はまたボルテールらの知遇を得て、文筆生活という「希望」を見出すのである。楽天的であたたかに人生をみつめるボーブナルグ独得の作品は『省察と箴言』などの作品集になって残っている。

●ついでに付記すると、彼に大きな影響を与えたボルテールの人生も、なかなかドラマチックで、忍耐することの大切さを教えているともいえる。ボルテールの作品が「摂政オルレアン公を風刺している」として、一年の投獄の憂き目をみたのが彼の二十五歳のときで、有名なバスティーユの獄舎につながれた。

●九年後には、ある貴族を風刺したとして再投獄、追放されてボルテールはイギリスに逃れる。ここでイギリス自由主義を体験した彼は、のちにフランス革命の基礎になる考え方を確立するのだが、著作を焼かれたり愛人であった貴族夫人のもとにかくまわれたり、波乱の多い人生を送っている。

●彼が真に多彩な文筆活動を結実させるのは、そうした苛酷な逃亡生活のあとである。

●ボーブナルグにしてもボルテールにしても「忍耐とは希望をもつ技術」であることを十分に体験のなかで知っていたといえる。

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