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書物で読むだけでは埒あき申さず。人を遣わされて道を開くよりほかなく候

幕末の兵学者 佐久間象山

●佐久間象山が老中阿部正弘に提出した上書の一節。この前に「火兵の術、水軍の法、海外の固め、城塁の制など」とあり、「書物」は西洋の書物、「人を遣わされて」は西洋へ留学させて、という意。

●当時、老中の相談役であった象山が国禁に触れ、これだけの建言をするのはきわめて危険であり、相当の覚悟がいった。にもかかわらず、断行したのは、西洋の兵学の優位を認めていたからである。

●西洋の兵学の真髄をきわめ、国防に役立てるには、「書物」を読んで研究するだけでは埒があかない。やはり、西洋へ人員を派遣して、実戦演習を見学したり、兵器を使う技術を体得したりして、そのうえで日本の防備体制に工夫を加えなければならないと考えていた。

●すなわち、孫子の兵法でいう敵のはかりごとを破ってそれができないようにする「伐謀の策」である。象山には、どうしても「敵を知り、己を知る」のが急務に思えた。上書には「人を遣わされて」としたためたが、実のところは、自分で西洋へ視察に出かけたくてしかたがなかったのだ。しかし、上書は取り上げられることなく終わった。

●こうした象山の情報収集に見せた姿勢は、今日、外国であれ、他企業であれ、競合する相手とビジネスの場で戦う場合に参考になる。

●すなわち、相手の実情を目のあたりに見て、調査、研究することなくしては、相手に勝つことは望めない。そればかりか、手をこまねいていては、相手に乗じられ、市場を荒らされ、シェアを奪われる憂き目にあうことになる。

●たとえば、マイクロエレクトロニクス関係の事業であれば、アメリカのシリコンバレーに技術者を派遣し、その最前線の技術を積極的に学び取って、自社の製品開発に役立て、対応していかないと、激しい開発競争や販売競争に遅れを取ってしまうのである。

●企業防衛のための技術情報の収集は、その技術を生み、活用している現場で実地に行うのが最良の方策である。

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