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モデル級美女が料理が嫌いすぎて突然歌い出す姿に全私が泣いた『すみれ先生は料理したくない』

【レビュアー/和久井香菜子

私は料理が嫌いです。

それなのに外食が続くと、なんでもいいから自分で作ったものが食べたくなるんです。これはどういうことですか、なんの罰ですか。

だいたい自炊するって、毎日毎日、冷蔵庫には何が入ってたっけとか考えながら、献立考えて実践して、お腹いっぱいになって幸せ気分になった頃に訪れるのは大量の洗い物ですよ。なんの罰ですか。

「仕事して稼いでいて、家事は最低限、ご飯なんか作らないです」って言うの、男の人は罪悪感がないのに、女の人はすごくある気がします。

周囲には「男の人が台所に立つのは可哀相」とか言う女の人もいて、聞く度に目まいがしてます。

ダラダラ遊んでる人の目の前で家事するほうがよっぽど奴隷っぽくて可哀相じゃないですか?

結婚して共働きなのに夫が家事をしないとか、それ結婚するメリットあるんですか?

ま、ま、まさか、夜ご奉仕いただいているために家事ご奉仕してるとかですか??

もうタイトルだけでも共感の渦潮で胸が張り裂けそうです。

すみれ先生30歳、幼稚園のピアノの先生。モデル並みにスタイルよくて、優しくて上品で優雅で、でも料理が死ぬほど嫌いです。

キライなだけじゃなくて、めっちゃヘタクソです。レシピを見てもその通りにできません。疲れて帰ってきて、ご飯を作ろうとして嫌になって、すみれ先生は歌うんです。

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『すみれ先生は料理したくない』(大久保ヒロミ/ぶんか社)より引用

わかるぅ〜。

すみれ先生は、料理上手な男性と結婚したいと思ってます。私もです。

ひたすら料理で失敗を重ねるすみれ先生だけど、ちょっと思うんですよね。

すみれ先生、完璧主義過ぎです。

私、割とすみれ先生と同じような失敗やってます。薄くて味のしないお味噌汁作ったことくらい何度もあるし、味のしない石っころみたいな形の不揃いなおにぎり握ったこともあります(同じ大きさのおにぎりいくつも作るってけっこう技術いるぞ)。お弁当持ち寄りのピクニックに洗ってもいないキュウリをゴロッと持っていったこともあります。

それでも自分が料理ができないと思ったことないです。失敗と同じくらい美味いのも作ったことがあるからかもしれませんが。

だけどすみれ先生には、大きな大きなプレッシャーがのしかかっています。

料理が嫌いで、苦手で、やりたくないのに「やれない」「やらない」って言えないプレッシャー。もしくは、プレッシャーと自覚してすらいないかも。これって世の中の大半の女たちが経験しているのでは?

私は「料理が得意です」なんて言って「嫁にぜひ」とか思われたら嫌だから、昔は家事することを一切公言しませんでした。そんな理由で結婚したいとか思われたら大変じゃないですか。自分の世話をするのだってそこそこ面倒くさいのに、他人の(しかも大人の)世話なんか絶対したくないです。

少女漫画の主人公は昔っから、「家事なんかしたくねえよ、それでもいいじゃねえか」と叫んできました。『はいからさんが通る』の紅緒は驚くほどの家事オンチだったし、『のだめカンタービレ』ののだめはゴミのような部屋に住む女でした。

そうしたラインナップにすみれ先生が加わりました。

この流れを止めてはいけません。

しかも、料理や家事ができない・苦手という主人公は山ほどいましたが、あくまで設定のひとつ。主題は他にあったものです。しかしこの作品と来たら、「料理したくない」ってだけで話が進むんですよ、すごくないですか?

どれだけ世の中には料理したくないシチュエーションがあるんですか!

すみれ先生の料理失敗体験と、それに対する心の叫びを音楽に乗せ歌い上げるセンスにひたすら笑える作品です。うっかり外で読んではいけないヤツですね、読みながら何度も吹きました。

だけどね、そんなギャグ漫画なのに、根底には日本の病巣とも言えるジェンダー問題がギッシリ詰まっているんですよ。

「なにこの漫画、意味わからない」って時代に早くならないかな。