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AかB、どちらかを選びきれない時の正しい決断の仕方『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』

【レビュアー/ミヤザキユウ

こんにちは。ボードゲームデザイナーのミヤザキです。

自分はプロとしてゲームを作っている人間なんですが、作っている最中って、迷うことばっかりです。

たとえば新しいゲームを作っているときはだいたい、ルールA or ルールBの決断を迫られます。どちらも面白いし、実際にテストしてみたら好評だった。しかし公式のルールをどちらかには決めないといけない。

何度も決めてきてますが、これが僕はとても苦手でしょうがないです。だって、どっちが正解がわからない。そんで、あとで出版したあとで「こういうルールの方が面白かったんじゃないか」とか言われるかもしれないんです。いやですねぇ。

でもそういう時のやり方が『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』に書いてありました。

決めないといけないことがあるひとはぜひ読んでほしいです。

医師の1%未満しかいない、病理医とは

本作の主人公は「病理医」の岸先生です。

病理医とは、患者から採取した細胞や組織を顕微鏡などで検査して、どういう状態か診断をおこなう医師。いわば、患者ではなく病気そのものを見るお医者さんです。

だから誰もが診断で内科や外科の医師には会ったことがあると思いますが、普通に暮らしていると病理医の先生に会わないはず。

日本病理学会によれば2020年時点で日本に2500人強しかいない(医師全体は30万人以上)ので、そもそもレアなお医者さんでもあります。

ただ、ひと目で原因がわかりにくいような病気をするときっとお世話になります。

僕も昔かかった病気で原因が3つ考えられて、どれが原因か特定して治療方針を決めるためには生検(組織をとって見ること)をしなくてはいけなくなったことがあったんですが、多分その時に助けられていただと思います。

そんな立派な仕事である病理医の岸先生は、腕も確かで信頼も厚いのですが、残念なことに性格に難があるために院内では煙たがられています。本作では、そんな岸先生のもとに、新人医師の宮崎さんが弟子入りするために押しかけてくる日から始まるストーリーです。

誰も助けてくれない仕事での決断方法

弟子入り志願の宮崎さんに、岸先生はテストを出します。それはプレパラートに入った細胞の標本が、なんの疾患のものかを当てるというもの。

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『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』(草水敏/恵三朗/講談社)1巻より引用

早く認められようと張り切る宮崎さん。しかし医師としての自分の経験と知識を総動員し、徹夜で資料にあたって考えても、答えは出ませんでした。

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『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』(草水敏/恵三朗/講談社)1巻より引用

リミットの日、宮崎さんは悔しさを滲ませながら診断ができなかったことを岸先生に伝えます。

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『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』(草水敏/恵三朗/講談社)1巻より引用

しかし、それが正解。

宮崎さんの言った「診断をつけることができない」が病理医として出すべき答えなのでした。

そういう時は、素直に、素早く認めてまたテストさせてもらえばいいんです。

今回のケースであれば、この細胞だけでは分からないけど確実になんらかの疾患があるなら、さっさと同じ人から別の細胞を取ってくればいい。自分のプライドとかより、患者の命が大事ですから(いい話っぽいですが、岸先生の性格の悪さがうかがえるストーリーでもあります)。

ボードゲーム作りで言うなら「ごめん、もう一回テストプレイしていい?」の一言が言えるかどうかだと思います。いい決断、面白いゲーム作りのためには、ためらいなくそれを言うことが大事ですね。締切の許す限りは。

そんな"決断"への向き合い方を教えてくれるのが『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』。

何かを決めるときに思い出してほしい漫画です。