見出し画像

宝塚歌劇でも舞台化された、最低だけどとにかくかっこいい男の話『エル・アルコン -鷹-』

今回は、とにかくかっこいい男の話をしようと思います。

『エル・アルコン -鷹-』に登場するティリアン・パーシモン少尉です。

16世紀の英国海軍に所属している将校ですが、母方がスペイン貴族の血を引いていることもあり、彼はスペインのスパイをやってます。

さて、頭脳明晰、文武に秀でクールで多国語ペラペラとかいう男、女は好きに決まってますよね。しかも冷酷だけど情に厚い。
ええ、理想の男性像はティリアンさまです!

そんなキャラを宝塚歌劇団が見逃すはずもなく、2008年に星組で舞台化されてます。

クソ野郎だけどかっこよすぎる男・ティリアンさま

しかしティリアンさま、自分の邪魔をする人間はザクザク殺すし、出世の為に女を利用してヤリ捨てちゃうし、そういう意味ではクソ野郎です。
クラスにいたら、

「ねえ聞いた? A組のティリアン、C組のペネロープって子のことヤリステしたらしいよ。」

「嘘マジ? サイテー!」

「それも、彼女のとったノートがほしかったみたいよ?」

とか言われて総スカン食らいそうです。だいたい、愛のないセックスは少女漫画界では割とタブーです。「だって溜まってたんだもん」とかもう絞首刑ですね。

だがしかし、ティリアンさまは女をぞんざいに扱うけど、決してサカってはいません。

レディ・ペネロープという、プライドが高いだけの小娘を自分の船に乗せたときのこと。嵐に遭い、船が沈没しかかります。天気予報もない16世紀のことなんで、さすがに嵐に遭遇したのはティリアンさまの仕組んだことじゃないですが。

ティリアンさまは猛々しく活躍して船を沈没から救ったあと、疲れて館長室で寝ていました。そこへ、ペネロープがノコノコと船を救ったお礼を言いに来ます。そのペネロープにティリアンさまは「わたしもあなたにお礼がしたい」と言って無理やりチューします。そしてこう言うんです。

「レディ・ペネロープ、ドアをしめなさい」

「ドアをしめて、もう一度ここへきなさい」

完っ全にセクハラですよね。

自分の乗ってる船の艦長に逆らったら、自分の命が危うい。ペネロープは従うしかありません。

だけどティリアンさまは訴えらることもなく目的を達成しています。なぜなら、ペネロープが自分に惹かれていることを見抜いていたからなんですよ。シレっとした顔でペネロープの表情を伺っているティリアンさまのコマがあります。

どんな状況でも、理性で性欲も身体の反応もコントロールできるんです、ティリアンさまは。理性の中に感情がある感じ。

ペネロープが自分に惹かれるように仕向け、そして相手の心理ぐっと掴む。こういうところもティリアンさまのできるヤツという証明なんですよね。はーかっこいい。私を落としてください、ティリアンさま!

しかし、ペネロープはティリアンさまの親友の婚約者。それを寝取っちゃうんだから心底クソ野郎です。まぁティリアンさまは親友と思ってなかったみたいだけど。

ティリアンさまはうっすらマザコンで、母親から「オレンジ畑に夕陽が落ちる光景」の話とかを聞かされて育ちました。そうしている中でコンスタンティノープル陥落で活躍した「無敵艦隊」(もう名前がかっこいい)に憧れ、やがてはイギリス海軍で名をあげてスペインに高く自分を売ろうとします。

『エル・アルコン -鷹-』は、その目的のために知略を働かせて出世をしていくティリアンさまの物語なんです。

そりゃかっこいいわけだ。

架空の人物のはずが、実在した!?

和久井はこの作品に脳みそやられてスペイン語を習い、授業中に「無敵艦隊が好きです!」とのたまい(スペイン語でアルマーダ・インベンシブレといいます)、スペイン語を習い、セビリアに留学して街路樹のオレンジの木に鼻息荒くしてきました。ほんとにスペインの街路樹はオレンジなんですよ!

時系列的には続編となる『七つの海七つの空』では、主人公はルミナスという優男に変わってますが、ティリアンさまも登場します。

コンスタンティノープル陥落から数十年後に起こったアルマダの海戦。スペイン艦隊は過去の栄光が忘れられず、広い甲板でのチャンチャンバラバラ白兵戦をやる気満々でした。しかし時代は小回りが利くガレオン船が主流になっていたんですね。このあたりの話を読むと、いつまでも時代遅れの大型戦艦を作り続けた日本軍を思い出します。そして、作者の青池保子が時代考証きっちりの通でも読み応えのある作品を描く人だということもよくわかります。

ところで、高校の世界史の授業で無敵艦隊を習ったとき、先生が「イギリス海軍にスペインのスパイがいて、彼が実は暗躍していた」とか言ってて興奮しました。でもティリアンさまは完全に架空の人物のはずなんですよね。先生が『エル・アルコン -鷹-』を読んでいたのか、それともほんとに史実に残るようなスパイがいたのか……気になるなあ。

ちなみに紙で買うなら、『エル・アルコン-鷹-』『七つの海七つの空』『トラファルガー』の全部が収録されてるこちらの完全版がお勧めです。

WRITTEN by 和久井 香菜子
※東京マンガレビュアーズのTwitterはコチラ

この記事が参加している募集