今こそドラクエファンが『ロトの紋章 〜紋章を継ぐ者たちへ〜』を読むべき理由
こんにちは。ドラクエに関しては大好きというレベルを超え、完全に人生の一部であるマンガソムリエ兎来栄寿です。
私の少年時代の思い出の多くは漫画を除けばドラゴンクエストによって占められています。
初めて買ったCDはドラクエのサウンドトラック、そしてドラクエの小説が初めて買った活字の本でした。
パパスの仇であるゲマが憎くて憎くて、負けイベントとわかりつつもどうしても幼年時代に倒したくて、小学校から帰ったら毎日レベルアップだけに励む生活を4ヶ月繰り返していたこともありました(必死の想いで覚えたバギクロスをマホカンタで跳ね返され、涙で枕を濡らしました)。
『ドラゴンクエスト ユアストーリー 』『ドラゴンクエスト ウォーク』、そして『ドラゴンクエスト11S』と、ここ最近ドラクエに関する話題に事欠きません。
そんな今だからこそ、現在大いなるクライマックスを迎えている『ロトの紋章 〜紋章を継ぐ者たちへ〜』(以下『継ぐ者』)をドラクエをこよなく愛する方々へお薦めしたいのです!
『ロト紋』と『ダイの大冒険』!
『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』(以下『ロト紋』)は、言わずと知れた大人気作品です。数あるドラクエ関係の漫画の中でも、黄金期の週刊少年ジャンプで連載されていた『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』と並ぶ双璧であるということに誰も異論はないでしょう。どちらもドラクエをベースにしていながらも、全くドラクエについて知らずとも単体でも漫画として十二分に楽しめる傑作です。
『ダイの大冒険』がドラクエの世界観をベースにしつつ、オリジナルな世界を描いているのに対し、『ロト紋』は明確にドラゴンクエストⅢからⅠへと繋がる間の物語を描いているのが特徴のひとつとなっています。
そんな『ロト紋』ですが、実は2004年に創刊されたヤングガンガン誌上でこの15年ずっと正統続編である『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章 〜紋章を継ぐ者たちへ〜』が連載されています。恐らくその存在自体は知っているという方も多いのではないでしょうか。
しかし、発行部数を調べてみると全21巻の『ロト紋』が2000万部を超え1冊あたり100万部に近いのに対して、『継ぐ者』のとある巻は発売初週でわずか2万部強しか売れていないというデータがありました。
かつて『ロト紋』を読んで好きだった人でも『継ぐ者』最新までは追っていないという方も多いと思われます。最新巻は現在34巻となっており、一気に読むには分量が多く躊躇われるという方もいるでしょう。
しかし、しかしです!
『継ぐ者』は今が本当に一番熱く面白いのです!
『ロト紋』と合わせれば50巻を超える積み重ねがあるからこそ描くことのできた重厚な魅力があります。
※以下は『ロト紋』のネタバレを含みますので、これから合わせて読もうという方はご注意下さい。
『ロト紋』で心に残る名シーンといえば、やはり多くの人が獣王グノンとの闘いを挙げることでしょう。
地平線を覆い尽くす10万匹以上のモンスター軍団の凄まじい描き込みは『ロト紋』ならでは。街の人々からの投石に心身を傷付けられながら闘いに赴く孤高のアルスの姿に多分に漏れず私も涙しました。また、その後のシーンには滾り尽くしました。
『継ぐ者』には獣王グノン軍との戦いを超えるシーンがあるのか? と問われれば、それは残念ながらないと言わざるを得ません(あるいは、現在行われている最終決戦がそうなるかもしれませんが)。
しかし、それは面白さの質の違いの問題であり、決して『継ぐ者』が劣っているという訳ではありません。
『継ぐ者』の本当の面白み
グノン戦が大衆受けするエンタメ小説の面白さだとするなら、『継ぐ者』には長大な歴史書を紐解くような静謐で奥深い面白さがあります。
まず、『継ぐ者』の主人公は『ロト紋』のジャガン改めアランとアステアの間にできた子供・アロスです。これだけでも『ロト紋』ファンにはたまりません。更に、剣王キラと拳王ヤオの息子でありバトルマスターであるリーであったり、成長し大人になった賢王ポロンであったり、メインの登場人物・関連キャラは勿論のことサブキャラに至るまで多数出演します。ここでこのキャラが! その名前が! というシーンも多々あり、その驚きと喜びはぜひ多くの『ロト紋』ファンと共有したいものです。
そして、前作のラスボスであったイマジンに代わる新たな大敵は、ドラクエ本編の方により一層寄り添った存在となっています。そこがまた『継ぐ者』が歴史書的な面白さを持つ部分です。
言うまでもなく、ドラゴンクエスト本編にはⅢ→Ⅰ→ⅡのロトシリーズとⅥ→Ⅳ→Ⅴの天空シリーズが存在します。二つのシリーズの間の繋がりには諸説ありますが、『継ぐ者』においてはその二つのシリーズ及びⅦ以降のシリーズまでの繋がりも含めて、世界の真相に迫る大いなる解釈が試みられています。ここがまたドラクエ好きにとって大変たまらないところです。
解りやすく提示されているものもあれば、普通に読んでいるだけだと背景の一部としてスルーしてしまいそうなところにすら、ドラクエシリーズのファンなら瞠目するような描写もあります。読んでいて随所で「藤原カムイ先生は心の底からドラゴンクエストを愛しておられるのだろうな」と感じられます。この揺るぎなきドラクエ愛には、ドラクエ愛をもって応える他ありません。
スピンオフはどう読むべきか?
ところで、ドラゴンクエストⅪを最後までプレイした方ならご存知の通り、『精霊ルビス伝説』など半公式的な扱いであった過去のスピンオフ作品の設定が本編の設定とは決定的に異なることとなりました。
しかし、このようにも考えられます。伝説は伝説。人から人へと口伝で、あるいは書で伝えられたものです。必然的にその間に変わっていくものもあれば、正確ではないものもあります。意図的に脚色され変遷していくものもあります。だから、矛盾もあって当然なのだと。
ドラクエ本編、『精霊ルビス伝説』、そして『ロト紋』、『継ぐ者』。
もしそれらすべてが真実であるとするならば、そこには矛盾が生じてしまいます。しかしながら、本編や他のスピンオフと照らし合わせた時に発生するその矛盾ごと楽しみ、それらの伝説の矛盾を解消するような解釈を試みる、世界の真実の姿を想像するのは実に豊かな営みです。ドラクエが好きな人にこそ、ぜひこの営みに参加して欲しいと思います。『継ぐ者』は、それをするに値する材料を提示してくれています。
それにしても、まさか◯◯◯が×××で△△△とは! しかも◻︎◻︎◻︎は☆☆☆だなんていやはや…………
極め付けに、現在進行形で行われているラストバトル。これがまた『ロト紋』からの集大成となる超総力戦で手に汗握ります。開幕から技や呪文メゾラゴンを受けたかのように熱く燃え盛りました。物理的にかけるまでもなく、頭の中では「勇者の挑戦」がガンガンに流れていました。今ならまだ、この闘いをリアルタイムで追うことができます。
ぜひひとりでも多くのドラクエ好きの方とこの感動と感情を味わいたいので、ドラクエ11Sのプレイの傍ら、ドラクエウォークでのウォーキングの傍らに、ぜひ『継ぐ者』にも触れてみてください。
WRITTEN by 兎来 栄寿
※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
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