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あの名作ゲームのコミカライズが原作ファンを虜にした2つの理由『サクラ大戦 漫画版』

【レビュアー/澤村晋作

先日、『サクラ大戦 漫画版第二部』の最終巻となる8、9巻が発売になりました。

「サクラ大戦」と言えば、もとはセガサターンのゲームで、太正時代(大正をイメージした架空の時代)を舞台に、普段は帝国歌劇団として歌舞音曲で人々の心を潤し、有事には帝国華撃団として悪と戦う少女たちを描いた痛快活劇です。

その漫画版は第一部と合わせると全18巻という、ゲームのコミカライズ史上においても類を見ない大ボリュームの作品でした。

ゲームを元にしたオリジナル作品なら『ダイの大冒険』などの例はありますが、ゲームの展開を再現してのここまでの長期連載はちょっと思い浮かびません。

今回は、そんな長い連載期間の中で、数奇な運命を辿った本作をご紹介。
というわけで、これをレビュー!
(「これがレビュウ!」とかけたとても面白いギャグ)

1・太正桜が令和に嵐

本作は、平成14年、当時存在した漫画雑誌『マガジンZ』で始まりました。
ところが、『マガジンZ』は休刊となってしまいます。

そこで後継雑誌である『マガジンGREAT』(のちの『マガジンイーノ』)へ移籍しました。

もともと『マガジンZ』は永井豪先生を全面に打ち出して始まっていたので、ZからGREATになるのは自明の理ですね。

ここで見事なのが、原作ゲーム自体が黒之巣会との戦いを描く前半と、真の黒幕であった葵叉丹(あおいさたん)一派との戦いとなる後半に分かれており、雑誌休刊のタイミングで前半を終え、移籍のタイミングから第二部として後半を開始したのです。

非常にスマートな対応でした。

ところが、今度は『マガジンイーノ』も休刊となります。(ちなみにZ→GREATと来ましたが、グレンダイザーにはなりませんでした

そこで『月刊少年マガジン+』へ移籍するのですが、そちらも休刊となります。

以後は単行本を描き下ろす形式で刊行されていき、今回完結したのです。

太正時代を舞台とした作品が、激動の平成を駆け抜け、令和に完走する……ドラマですね。

さて、逆に言えば、それだけ途中で終わってもおかしくないほど休刊に巻き込れながら、それでも連載が継続したのは、それだけ愛されていた証左ではないでしょうか。

では、その愛された理由について見ていきましょう。

2・夢のつづき

本漫画の連載開始にあたって、『マガジンZ』にはまず番外編的な予告漫画が掲載されました。

その時、『サクラ大戦』ファンのみならず、漫画好きに衝撃が走ります。

なぜなら、完全に藤島康介先生のタッチを再現していたからです。
 ※この予告編ですが作者の政一九先生のツイッターで公開されています。

 (レニに織姫、巴里華撃団も出ているのはこれだけ!)

それは『マガジンZ』で『サクラ大戦』の漫画じゃないのに『サクラ大戦』の話ばっかりしていた漫画『濃爆おたく先生』も衝撃を受けるほどでした。

藤島先生と言えばゲームの「サクラ大戦」のキャラクターデザインでおなじみですが、その藤島先生が描いているとしか思えないほど完全再現されたタッチは、当時の常識では考えられないものでした。(正直、藤島作品のアニメ版のキャラデザを多く手掛ける松原秀典さんの変名かと思ったくらい)

コミカライズと言えば、作画担当の先生のタッチが常識。

これは同時期に『マガジンZ』に連載されていた作品を見れば一目瞭然です。

他にもコミカライズ作品はたくさんありますが、いずれも作画担当の先生のタッチにアレンジされています。それもコミカライズの魅力なのですが、基本的にはある種、別物として楽しむものでした。

現在では原作タッチの再現された作品も増えてきたためピンと来ないかもしれませんが、いわば現代アニメ的アプローチでのコミカライズは、当時極めて珍しいことでした。

そして、始まった連載は、ファンの脳裏にあった「サクラ大戦」のイメージそのままであり、大神隊長や帝国華撃団の活躍が毎月見られる、まさに原作ゲームからの夢のつづきでした。

3・春はめぐる

ファンを唸らせたのは絵だけではありません。

原作がシリーズ化・メディア展開する中で生まれた設定や、初代の段階では説明不足だった箇所が破綻なくまとめられていました。

例えば、初代「サクラ大戦」の黒幕・葵叉丹は、ある重要な設定が「サクラ大戦2」で明かされるため(1枚の写真から推測はできなくはないが、逆に言えばその程度)、そのまま漫画化すると米田司令などの反応が、設定と矛盾してしまう。

そこで本作では、「サクラ大戦2」で初出の情報を前倒しする形で取り込み、ファンが気になっていた矛盾を解消しています。

そのほか、小説版を読まないとわからなかった敵勢力の裏事情などもごく自然に語られているため、引っかかることなく読むことができます。このように微に入り細に入り、丁寧に初代の物語が再構成されています。

また、随所にファン心をくすぐる描写に溢れています。

一例を挙げれば『サクラ大戦2』から登場する人気キャラクター・加山雄一がアニメ同様、先取りで登場します。設定上、初代の時間軸から存在しているはずですが、濃いキャラなので下手に出すと主役を食いかねない彼を、上手く初代の物語に取り込んでいるのはお見事と言うほかありません。

加山だけでなく、舞台版である「サクラ大戦歌謡ショウ」のキャラクターも取り込んでおり、「サクラ大戦」のファンであればあるほど気づくところが多い作品となっています。

読んでいるうちに、あの頃の思い出が浮かんできては、胸中をくるくると回ることうけ合いです。

・まとめ

上記のように、ファン絶賛の内容を伝えてきましたが、「サクラ大戦」に触れたことの無い方にもおすすめできる本です。

いえ、むしろ初代「サクラ大戦」の移植がPSPを最後に途絶えているいま、「サクラ大戦」に触れてみたいという場合、もっとも適しているのは本作と言えます。

完結したいま、第一部から一気に読んでみるのも楽しいと思います。

「サクラ大戦」を知らないという人も、ゲームディスクをCDにプレイヤーで再生して警告メッセージを聞いていた人も、ぜひ読んでみてください。