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「バカと天才は環境次第」シュールギャグ漫画界の禁断の果実・長崎ライチが描く"紙一重"な優しい世界『紙一重りんちゃん』

【レビュアー/本村もも】

こんにちは。今日ご紹介するのは、「可愛いけど阿呆」「美人だけど阿呆」を描かせたら右に出るものはいない、『ふうらい姉妹』でお馴染みの長崎ライチ先生の新刊、『紙一重りんちゃん』です。

長崎ライチ先生と言えば、丁寧なタッチと、バサバサのまつげと艶やかな美しい髪、どこか昭和の少女漫画を彷彿とさせる、レトロ感のある絵柄で描かれる、4コマ漫画が定番です。

4コマの小さな1コマでも、影の付け方や塗りやが丁寧で、服の皺や背景も細かに描かれていて、扉絵などの大きな絵になると芸術性すら感じます。今回の『紙一重りんちゃん』の表紙はモノクロですが、他作品のカラーの表紙のものになると、もはや飾りたくなるかわいさです。

りんちゃん

『紙一重りんちゃん』(長崎ライチ/KADOKAWA) 1巻より引用

『紙一重りんちゃん』の主人公は、小学生の山崎りんどう、通称りんちゃんです。

りんちゃんは学校の勉強はとてもできるし、大人の言うこともちゃんと理解でき、そして一度見たものは映像として記憶される、ビデオメモリーの持ち主である天才小学生。

そんなりんちゃんが、日常の中で抱いた様々な疑問を、お母さんやお友だちのこだまちゃんに投げかけたり、新しく思いついたとっぴな遊びを実際にやってみたりする漫画です。

たとえば、宇宙人になったつもりで給食を肘から食べてみたり、音楽室の音楽家の写真をみて、だんなさん選びをしてみたり、幼稚園児のように道端にひっくり返って駄々をこねてみたいと言ってみたり・・。

そんな”〇〇と天才は紙一重”なりんちゃんに対し、お母さんやこだまちゃんはツッコミは心の中でしつつ、基本的には受け止めるスタンスです。(ちなみにお父さんは、りんちゃん以上のボケをかまします。)

ツッコミがいない、包含スタイルで織りなされる、ゆるりゆるりと進むギャグ漫画ですが、ときたまりんちゃんの放つ鋭い投げかけや、考えは真理をついているときがあったり、なかったり・・します。

りんちゃん2

『紙一重りんちゃん』(長崎ライチ/KADOKAWA) 1巻より引用

そんなりんちゃんのことを、全てのひとが優しく包み込んでいるわけではありません。「ちょっと足りないよね」とりんちゃんの陰口を言っている同級生もいます。りんちゃんが現実にいたら、もしかすると何かしらの診断がつくか、グレーゾーンの可能性があります。

実際漫画の中でも「今日学校どうだった?」という漠然としたオープンクエスチョンに対し、「苦手な類の質問」とりんちゃんは感じ、「今日は朝ごはんは何回食べた?」という具体的な数字の質問は「得意な類の質問」とし、嬉々として回答しています。

また、お母さんに「ママの好きなところはある?」と聞かれ「ある」とだけ答えた後に、「どんなところか教えて欲しいな」と言われ「しまった!そういうことか」とりんちゃんは内心焦ります。

言葉を文字通り受け止めてしまったり、コミュニケーションに少し難点があると言えるりんちゃん。

それでもそんなりんちゃんといることを楽しんでくれる親友のこだまちゃんや、とことん生徒目線になろうとする先生、そしてりんちゃんを信じて意思を尊重してくれるお母さんの存在で、りんちゃんの日々はギャグ漫画として成り立っている。そこには優しい世界が描かれています。

『紙一重りんちゃん』はシュールギャグ4コマ漫画でありながら、人と違った特性のある子どもの生き方をそっと教えてくれる、実は深い2面性をもった紙一重な漫画なのかもしれません。