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銀河鉄道の夜

今日から8月。スイスに来て2ヶ月が経ちました。あっという間に感じますが、振り返るといろんな経験をさせてもらっています。

普段の仕事のビデオ撮影とは別に、アイガーウルトラトレイル(スイス三大名峰として名高いアイガー・メンヒ・ユングフラウをはじめ、アルプス山脈の絶景の中を走るトレイルラン。「101km」の種目は、制限時間26時間、累積標高差はなんと6700mだそうです。)の撮影のお手伝いをさせてもらったり(日本語公式ページにも掲載いただいています。https://www.facebook.com/EigerUltraTrailJPN/ )、今月はウェデングフォトの予定も何件か入っています。

また仕事とは別に、皆既月食の夜、星空を撮りに人里離れた山奥まで連れて行ってもらったりもしました。こちらでは、信じられないくらいくっきりと天の川が見えるのです。

「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら、峠の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから」
(銀河鉄道の夜 / 宮沢賢治)

夜空を見上げて、ジョバンニとカムパネルラのように銀河鉄道に乗る私を想像していました。美しい文章の数々が降り注いで天の川と交錯する感覚。ぼうっとしているとそのまま自分がなくなる心地がしてきて、それは心が軽くなるようでした。
帰宅して読み返してみると、二人が旅する風景はあの夜みた星空に塗り替えられていました。

そのひとは指を一本あげてしずかにそれをおろしました。するといきなりジョバンニは自分というものが、じぶんの考えというものが、汽車やその学者や天の川や、みんないっしょにぽかっと光って、しいんとなくなって、ぽかっとともってまたなくなって、そしてその一つがぽかっとともると、あらゆる広い世界ががらんとひらけ、あらゆる歴史がそなわり、すっと消えると、もうがらんとした、ただもうそれっきりになってしまうのを見ました。だんだんそれが早くなって、まもなくすっかりもとのとおりになりました。


そして本を再読するとおもしろいのが、1度目では気にかからなかった一節に、目を止めてしまうことです。

「ああ、りんどうの花が咲いている。もうすっかり秋だねえ」カムパネルラが、窓の外を指さして言いました。
 線路のへりになったみじかい芝草の中に、月長石ででも刻まれたような、すばらしい紫のりんどうの花が咲いていました。

今の仕事では毎日花の撮影をしています。力強く咲いていたアルペンローゼはほとんど姿を消してしまい、マツムシソウが秋のはじまりを教えてくれます。可憐に咲くりんどうも、6月に比べすっかり種類が変わりました。そういう自然のかすかな移ろいを、東京ではなかなか見つけることができなかったように思います。


どれもいつもとは違う撮影で、ためになることばかりです。きっとこれからの仕事の幅も広がるでしょう。不思議な縁で思いがけない体験ができています。そもそも私が毎日高地を走り回って撮影しているなんてちょっとパラレルワールドみたいですが…。こうやって風に吹かれてあらよあらよと面白いところに流れていければなと思います。

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