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「わたしとあなたの物語」感想と日記

先日、Fluss ( http://fluss.es/ ) で行われた詩の朗読会のお手伝いと撮影をしました。

朗読会というものに参加したのははじめてだったのですが、玉澤さんの心地いい声と小松さんの美しいピアノが混ざり合って、佐々木さんの小説があたらしい表現に生まれ変わるというのが、とても新鮮で素晴らしい体験でした。
私にとっての写真もそういう行為かもしれません。現実は現実で素晴らしいけれども、なにか特別な一瞬を切り取る事で、そこに解釈や感情、別のストーリーを探しているような。

帰りに佐々木新さんの別の小説「わたしとあなたの物語」を購入したのですが、これがまたたまらなく好きでした。どきどきしながら読み進めて、読み終わったあとしばらくその世界から抜け出せずにいたほどです。

小口から見て右側からは、大学生の男の子が主人公の「月」という縦書きの物語が、左側からは老年の女性が主人公の「湖」という横書きの物語が、それぞれの視点で語られています。
ふたりの人生はもちろん交わるのですが、書き手の年齢(時代)や場所が違ったり、「湖」は手紙の形式で書かれていたりと、いろんな要素が異なるために、"同じ出来事に対するふたりの胸の内の違い"みたいな単純な比較構造になっていなかったのはとても優しいことだと思いました。そんなことは仕方がないし。

私は、いろんなものに(不意にでも)乱暴になってしまうのが怖い。受け止めたいということなんだろうけどなかなか難しくて、この本にはその手がかりみたいなものがたくさんあり、いまのタイミングで出会ったことにも少し驚きました。

「湖面は映り込むすべてのものを一見、対称的に映し出すように感じられますが、決して細部まで同じとは限りません。輪郭がわずかに溶けていて、曖昧な部分も多く含んでいます。しかし、その方が良いのだ、と今の私は思います。そのものの本来の姿を捉えるには、明瞭に細部まで見えてしまっては、何かを見逃してしまう。」

「きっと物事というのはあちらから迫るように強制されるのではなく、自然とこちらから向かっていかなければ、その本来の姿をしっかり掴むことはできないのでしょう。そういう意味では、私たちは必ずそのものを一度は疑って否定しなければ、つまりそのものから一度は遠ざかって周縁に立ち、ゆっくり眺めてみなければ、そのものの本来の輪郭と真の価値を見出すことができないのかもしれません。」

私の大切なものたちも、太陽の光と月の光の二つの光源の下に置いてみると、もちろん見え方が違う。でも本質は同じ。その変化も輪郭の曖昧さも認めて、見つめる事を諦めないことが、恥ずかしい言い方をすれば愛なのかなあと思います。

この本に関しては、また何度も話したいです。

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