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郊外へ / 堀江敏幸

”結論から先に言うと、私はこの本に打ちのめされて”しまいました。好きな文章は、本を開いて数行でわかります。上から下までゆるやかに流れて、すっと体に染み込んでくる。そこには書き手の虚栄も自己陶酔もなく、自然と紡ぎ出される言葉であるのに、知性、素養、そして品のある愛が滲み出ている…。そんな感覚です。

堀江さんは早稲田大学の先生でもあって、つくづくなんで私は文学部に行かなかったんだろう…と後悔しています。そして岐阜県出身でもあるらしい!いつかお会いしたいです。

様々な写真家や詩人などの作品と結びつきながら、パリの郊外を描き出す読み物です。エッセイ集と分類されていますが、あとがきでは虚構だとも明言されています。ただ、実体験もたくさんあるようで、その神秘性も魅力です。

雑誌「ふらんす」で連載されていたもので、私が惹きこまれてしまった冒頭の『レミントン・ポータブル』は、パリの古物市で写真家ロベール・ドアノーが使っていたタイプライターに出会う話。これについては、【書き手としてのドアノー】「ロベール・ドアノー写真展」での講演会の採録(郡山市立美術館 2014年)でも詳しく語られているのでそちらを読んでください、おもしろいので。不思議な縁で世界は回っていますよね。そういう巡り合わせの不思議、みたいなものがこの本にはたくさん散りばめられています。パリの郊外に、自分の記憶の片隅のあの人の息遣いを感じて、はっとつながってしまう。予感に誘われるがままに郊外を旅していきます。

『ロワシー・エクスプレス』では、『ロワシー・エクスプレスの乗客』という作品が紹介されています。主人公のマスペロが写真家のフランツを誘い、パリ地方を南北に横切るRERのB線を、一駅ずつ一泊しながら歩いて旅をするという本です。

「終点のサン・レミィにたどり着いたのは、六月十日、ほぼ一ヶ月の道程である。明らかなのは、これがひと組みの男女にとって、歩行の一瞬一瞬を契機に自身の来歴を見つめる作業だったという点だ。(中略)郊外の町の受け身の変転を見据えることがそのまま自身の現在と過去を見つめる姿勢に通じ、どこにでもありそうな生活と、その裏面に張りついた忌まわしい過去が、巧みな比喩や安手の感情に置き換えられず整理されない実感として心の底に放置されているところに、本書の類例のない迫力がある。」

”わかる”には、きっと遠回りで面倒な行動が必要で、それは突拍子も無い思いつきからはじまるものだったりもします。

動いてもみないで、ただうわべをすくっているだけのままでは嫌だなあ。

実はこの『郊外へ』、何年も前にバンドメンバーの湯浅に薦めてもらって購入したものなのです。しばらく本棚に眠らせてしまっていたのですが、数日前に、フランスに留学中の湯浅に会いに行く夢をみたことであっと思い出し、引っ張り出して読んだらまんまと射抜かれてしまいこのザマです。
それからもうこれは絶対にフランスに行くでしょうという気になってしまって、ボーカルさがちゃんに「行こうよ!」と言ってみたら「おお…行きますか。」と。ドラム寺田も「いえーい!!行きたい〜〜!!」との返事で、日程が合えば行けそうです。みんな最高ですね。ということで6月にパリに行ってきます。

”思いつきというものは、いつもそんなふうにしてやって来る”みたいです。

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