見出し画像

zineのあとがき / 月と六ペンスの感想

「月と六ペンス(サマセット・モーム著)」の終盤に、「生まれる場所をまちがえた人々がいる。」とはじまる一節があります。

「彼らは生まれたところで暮らしてはいるが、いつも見たことのない故郷を懐かしむ。(中略)ときどき、わけもなく懐かしい場所に行き着く者がいる。やっと故郷をみつけた、と彼は思う。そして、それまで知りもしなかった土地に落ち着き、それまで知りもしなかった人々と暮らしはじめる。まるで、生まれたときから知っていたかのように。その地で、彼はようやく安らぎを手にいれる。」

主人公のストリックランドは、タヒチの美しい楽園に辿り着きます。

私にもそんな場所があるんじゃないか。もしかしたら、いままで見たこともないような色とりどりの美しい場所だったりして!

空想しながら目を閉じてみると、そこには大きな川が流れています。川から蒸発した水分をたっぷり含んだ空気が漂うと、まちの時間はゆっくり流れているようで、夕暮れの景色も潤んでいるみたいで。向こう岸にもまちは続く、暮らしの中に悠々と存在する大きな川。

それは外国の知らない川でも、例えば多摩川なんかでもなく、ああ、生まれ育ったまちに流れる長良川の景色なんだなあと気付きます。私には当たり前に29年間の生活があった。30歳になってその先も、きっと大変なこともとびきりの幸せもたくさん積み重なって、いつの間にかおばあちゃんになる。もちろんおんなじ私の中で。

zine " I'm really not there #1 "

今回四人の話を受けて、肯定も否定も感想も、極力書かないようにしました。なにか意図のみえる編集はしたくなかったので。私が勝手に感動したり自分の過去と重ねたりしたように、きっと読んだみなさんも思うところがあったんじゃないかな。こっそり教えてもらいたいし、私も話したいです。


完売したzineですが、数日中に増刷するぞと自分にハッパをかけるために、通販の在庫を増やしてしまいました。よかったらぜひ…。

http://tmphtmt.thebase.in/items/9836140

できるだけ続けて作っていきたいなと思っています。次号もよろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?