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『アーモンド』ソン・ウォンピョン著

読書記録です。
韓国文学にハマって、我が家の積読そっちのけで、どんどこ買ってます。
しかも単行本。無限の場所と無限の読む時間が欲しいこの頃です。

『アーモンド』
ソン・ウォンピョン 著 / 矢島 暁子 訳

<あらすじ>
扁桃体(アーモンド)が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳の高校生、ユンジェ。
そんな彼は、十五歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、ただ黙ってその光景を見つめているだけだった。
母は、感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記させることで、なんとか普通の子に見えるようにと訓練してきた。
だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェはひとりぼっちになってしまう。
そんなとき現れたのが、もう一人の怪物、ゴニだった。激しい感情を持つその少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていくーーー。

祥伝社HP 紹介ページより引用

 本屋に行けばよく表紙を見てたこちらの作品。韓国文学を読む前から、韓国文学といえばこの本が売れ筋なんだな、という認識をしていたほどの作品。
 ここまで有名で、いつでも平積みしてある作品なのだから、きっと面白いに違いないということで、2冊目に選ばれた韓国文学はこちらの作品となりました!

 淡々と進む物語。やはり韓国文学、とても読みやすくて驚異の速さで読み終わってしまう。

 感情のない状態ってどういうこと? というところから読み始めたわたし。最初のページからとても不穏な空気が漂っていて、だけどその不穏な空気と感情のないユンジェがどう絡み合って進んでいく物語なのか。

 ユンジェは感情がわからない状態だけれども、祖母や母親にとても大事にされていて、だからこそ、この結末になったんだろうな、と思う。ユンジェの周り、いい人がたくさんいて、その人たちがとてもユンジェ思いなんだよね。(もちろん悪意ある人もいるけれど(悪意はないけどユンジェのことを偏見で見る人も含め))
 ユンジェ自身も、傍から見ると、感情がなくてどう接すればいいのかわからないような人に感じるけど、相手のことを考えよう、わかろうとする姿勢がすごいなぁと。すごいよね、わたし絶対ユンジェみたいにも、ユンジェの周りにいたいい人たちのようにもできていないと思うもの……。

 感情がないながら、誰よりもゴニのことを理解しようとするユンジェが出てくるのですが、ゴニにとってそれは救いでしかなかっただろうな。感情がある周りの人間たちの方がよっぽどゴニのことを決めつけてかかって接していたし、偏見も持っていたし。感情がないほうが素晴らしい! というつもりは全くないけれど、感情があって、その状況で判断したり接したりする様は、感情があったところで、ゴニのことを無言の偏見で傷つけているのだと感じた……。無意識の差別というか、こういうの普段から自分もしてしまっていそうだな、って。

わたし1冊の本を1週間とかかけて読むタイプなのに、一晩でした。
4、5時間で読めたんじゃないかな。
だからこそ、また再読したい作品です。

 ちなみに、本作の2つ前『愛するということ』エーリッヒ・フロム著を読んでいたのですが、こちらの作品が本作に出てきました。実は1つ前に読んだ『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』にもフロム著の『生きるということ』が出てきて、勝手にタイムリー!って思っていたのですが、連続して本作でもフロム著作(しかもわたしが読んだ『愛するということ』)が出てきて、思わず声が出ました。笑
 まぁ、ただの偶然でしかないのだけど、『愛するということ』を読んだ直後に、この連発はなかなか面白くないですか!? 色々と幅広く読んでみると、こういう楽しいことが起こるもんなのね……。登場する書籍の内容を知っていると、その場面の会話の解像度が上がって楽しいですね。

 あと! 最後に!
 恋の落ち方と感情の生まれ方の表現がとても秀逸だった! 大抵、感情が豊かな登場人物が出て来ることが多い小説の世界。そうするとそのような人々がいろんな表現で感情を描かれるのだけれど。本作は、基本的に感情がない主人公ユンジェ。だから感情が芽生えた時に、どんなふうに描くのか。
 まさに! 感情が! 生まれた! としか言いようのない表現で、素晴らしかったです。そんなところを読むのもこの本の楽しさかと。

おわり

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