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「サポートブック」の作成と活用―あたりまえへのアクセスを支えるために―

1.はじめに

水内研究室では、これまでに、幼児期から成人期まで、様々なライフステージにある発達障害児・者のサポートブック・サポートシート作成のお手伝いをしてきました。このnoteで私が読み手(保護者/支援者)にもっとも伝えたいことは、サポートブックのハウツーではなく、このnoteの最後の節「7.サポートブックの意味」のところになります。

また、2020年度後期富山大学公開講座では成人当事者に向けた演習型の講座「障害のある方のサポートブック作り講座―自分の取り扱い説明書を作ろう―」(1回90分×5回)を予定しています(コロナ禍で開催がどうなるかわかりませんが。。。)。募集案内の公示はもう少し先になりますが、受講してみたいと考える保護者や本人さんが、講座選択の参考にしていただくことを念頭に、このnoteを書きました(子ども時代用・保護者作成版の内容がメインになりますが)。
なお、タイトルにある「あたりまえへのアクセス」とについては以下をご参照ください。

2.サポートブックとは

サポートブックとは、一般に、子どもの保護者が、支援者に見せることで、自分の子どもについての理解を深めてもらうことを目的としたツールです。複数の支援者の間で、子どもの様子、接し方や支援の仕方を共通理解することが主なねらいです。使用する場面としては、担任保育者が変わる時や、就学時、医療機関の受診時や、一時的にボランティアに子どもを見てもらう時など、いろいろなケースがあります。したがってコミュニケーションの取り方や積極的な関わりに必要なこと、子どもが影響を受けやすいこと等を具体的に示したものになります。そのためサポートブックには、子どもの苦手やつまずきやすいことだけでなく、支援者が対象児と関わる上で有効な情報となる子どもの好きなことや得意なこと、興味を持っていることなどが具体的に多く示されていることが望まれます。

3.サポートブックの種類

サポートブックは、使う目的や見せる相手によって、内容や形式が異なります。例えば歯科診療を受ける上で忙しい歯科医に伝えるべき内容と、お泊まり保育のような生活全般を含む事態で保育者に伝えるべき内容は当然異なります。また前者は多くてもA4一枚程度の情報量でシート形式(サポートシート)、後者は食事、風呂などの生活シーンごとになるため複数ページの冊子形式(サポートブック)のものになるでしょう。したがって、作成する際には、なんでも盛り込みすぎるのではなく、それを見る対象、場面や用途をよく考える必要があります。
大人になった本人が自分のことを説明するために作成し用いる「名刺型」のものもあります。

4.サポートブックの内容

一般的に、サポートブックの内容には以下のようなものが含まれます。ただし、ここに挙げたものはあくまで例に過ぎず、実際には、対象者の年齢、ニーズ、ねらい、活用シーンに応じて、その内容も個別最適化され作成されるべきツールです。

プロフィール(名前、愛称、連絡先など) / 利用している医療機関や療育機関などの社会資源 / 子どものコミュニケーションの取り方、要求や拒否の仕方 / 興味関心や好き・得意なことや遊び、今はまっていること/ 苦手なことや場面とその時の対処法 / 食事やトイレなどの日常生活面での支援方法 / 身体とアレルギー(身体の特徴&アレルギーについて) など

5.サポートブックのひな型

本来は、サポートブックは、その対象に応じて内容や形式が個別最適化されるべきものですが、身近にサポートブック作成を支援してくれる機関や専門家がいないことも多々あるでしょう。そんな際に活用できるものとして、今日、インターネット上に多くのサポートブックのひな型が掲載されています。検索サイトで「サポートブック+テンプレート」などと検索してみてください。自治体や各地の発達障害者支援センターなどが中心となってその地域の支援リソースの情報なども付随したひな型を提供しているものもあります。詳しくは以下のサイトにまとめられています。

また、スマホやタブレット端末上で、ガイダンスに従いながら項目を入力していくことで簡単に作成できるアプリもあります。例えばLITALICOジュニアの「サポートブックテンプレート」のサイトや、楽々かあさん公式HPの「楽々式サポートブックの書き方」サイトには、詳しい説明と共に作りやすいテンプレートがあります。

ただし、繰り返しになりますが、サポートブックは、本来は、対象者のニーズやねらい、活用シーンに応じて個別最適化され作成されるべきツールです。
以下は、少し前のものになりますが、私自身がサポートブックを作成するにあたり、大変参考にさせていただいた書籍です。単に作り方だけでなくその意味や意義について参考になることが書かれています。「発達障害のある子とお母さん・先生のための―思いっきり支援ツール」に所収されている「サポートブック内容アンケート」は、私が行うサポートブック作成教室では今でも必ず使用しています(著者の武蔵先生(元富山大学、現香川大学)と一緒に、2005年ごろ、サポートブック作成教室や支援ツール教室をやっていたのは良い思い出です)。

6.サポートブックを作成するプロセス

私のこれまでの経験上、支援者がサポートブックの作成を手伝う際によくあるのが、お子さんの得意なことを教えてくださいと尋ねた時に、保護者からは「得意なことはありません」とか「思い浮かびません」というような答えが返ってくるケースてす。逆にお子さんが困っていることを教えてくださいと尋ねると「すぐ立ち歩いてしまい人の話を聞けない」「かんしゃくやパニックを起こす」などとたくさん出てきます。支援者はそうした保護者の抱える困りの気持ちを受け止めつつも、「子どもの困り」と「保護者の困り」とを区別しつつ、そうした困った行動がいつ、どこで、どのような時に生じていて、その時にどのような対応を取ることでうまくいくのかなどを整理して随時保護者にフィードバックしてあげると、自動思考(特にネガティブなもの)や偏った認知を是正し、保護者も自分の子どもを客観的に見る目が養われます。また、まだ家庭と保育所等との間で、まだ完全にはできていないけどいまチャレンジしていることなども確認しあえるよい機会となります。そして、今日からできることをポジティブ取り組んでみようという意欲に繋がったりします。

このように、作成にあたっては、本来であれば、保護者と専門家とのできれば複数回にわたる共同作業が必要です。個別の発達相談の場でもいいですし、親の会などの場でサポートブック作成教室のような形で作成会を行うと、同じ障害のある子どもの保護者同士で話し合い意見を取り入れながら、より子ども像が具体的で支援を考えるのに役立つサポートブックの作成につながります。

なお、サポートブックは一度作成したら終わりではなく、子どもの発達や状態の変化に合わせて随時書き足したり改訂したりすることが大切です。

7.サポートブックの意味

サポートブックは、担任保育者や支援者に渡して子どもについての理解を促すことが目的のすべてではありません。むしろ、支援者とのていねいな共同作業による作成過程で保護者自身が自分の子どものことを客観的に見つめ、育ちを再認識できることにこそ大きな意味があります。

したがって、支援者は、「サポートブックを作ればいいですよ」と保護者に対し簡単に勧めることは好ましくありません。ましてやサポートブックの見本を見せるだけだったり、作り方の本やウェブサイトを紹介するだけでは、専門家のする支援としては不十分かつ無責任です(そんな支援者は専門家とは言えないと水内は考えます)。なぜなら、保護者が一人で、子どものことを客観的に見つめなおし、支援の方策を具体的に整理して記述することは、そんなに簡単なことではないからです。したがって、支援者は短絡的にサポートブックを作ることを保護者にすすめるのではなく、その作成過程に関わりながら、子どもの見方を変え、保護者がより子どもの「味方」になるように導いていくことが必要です。

また、保護者の中には、せっかくサポートブックを作成しても、これを保育所や就学先の小学校に渡すことでモンスターペアレントと思われるのではないか、あるいは「こんな対応はうちではできません」と一蹴されるのではないかという思いから「渡していいものか?」と悩んでいる方もいます。したがって、支援者は、渡す機会に立ち会って保護者とともに先方に説明したり、先方に電話やメールで保護者の日々のがんばりやサポートブック作成に込めた思いを伝えるなどしてあげることも必要かもしれません。また保護者が一人で作ったのではなく支援者と共に作ったことがわかるように、サポートブックの最後のページなどに監修として支援者の氏名や所属を示すこともよいでしょう。

8.おわりに

サポートブックは、個人情報そのものであるという以上に、その人や家族にとっての唯一無二のアルバムや日記に準じる大切なものであるため、ここでは、写真などの掲載は一切いたしません。もしイメージのサンプルが見たい方はネット上にもいろいろありますので「サポートブック+画像」などと検索してみてください。

なお、これまでに水内研究室で作成のお手伝いをしてきた、様々なライフステージや、シーン、様式からなるサポートブックは、対象者の許可を得てその複製を保管していますので、もし水内のもとで直接見たいという方には、そのサポートブックに込めた作成者の想いとともにお見せすることができます。

註)本記事は、以下の自著に収録した内容の一部を、note用に加筆し再編集したものです。


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