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2024ベルリン観劇記録(30)Siegfried

3月21日、ニーベルングの指環の第三夜『ジークフリート』。


指揮 Philippe Jordan
演出/舞台美術 Dmitri Tcherniakov
衣装 Elena Zaytseva
照明 Gleb Filshtinsky
映像 Alexey Poluboyarinov
出演 Andreas Schager, Stephan Rügamer, Tomasz Konieczny, Johannes Martin Kränzle, Peter Rose, Anna Kissjudit, Anja Kampe, Victoria Randem


 二度の休憩込みで5時間30分。長い!疲れる!が、『ワルキューレ』とは打って変わって演劇的面白さに溢れており、最後まで飽きずに観ることができた。玩具を燃やすことで子供時代との別れを象徴していたのがよかった。しかし神話伝説由来の作品であるから、現実的なセットの中で行われるとやはりリアリティラインが気になる。例えばブリュンヒルデは場面の直前に眠るのではなく、冷凍睡眠のような扱いの方がすんなり受け入れられた。剣や槍のような武器も、他のものに仮託してくれた方がわたしには納得できる。神々の世界であれば理解できるが、リアルな情景の中で近親婚が表現されると気持ち悪さが先立つ。第三夜に至り、放浪者(ヴォータン)、アルベリヒ、エルダはしっかり年老いている。認知症の蒙昧とした状態から、歌声で起こされるエルダ。歩行器を使うアルベリヒと杖をついたヴォータンのやり合いはとても愉快だった。ミーメの歌唱は歌詞の細部に至るまでよく聞こえたし、ジークフリートとブリュンヒルデがいきなりキスをしたり恋に落ちるのは、お約束とは言え引っかかりつつ、声の力強さで十分釣り合っていた。こんな風に歌い合える相手はお互いに今までいなかったのだろう、と想像できたのだ。
 コンセプトと演出については気になる点も様々あったが、休憩を挟みつつ4時間半にわたり、圧倒的な持久力で4階席まで声を響かせた俳優陣には、万雷の拍手を送る他はない。容赦ない爆音のオーケストラ相手に人の声がこうも響くかと、度肝を抜かれた。

 残すは2日後の『神々の黄昏』である。がんばろう。

ドイツで観られるお芝居の本数が増えたり、資料を購入し易くなったり、作業をしに行くカフェでコーヒーをお代わりできたりします!