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2024ベルリン観劇記録(12) RUSALKA

2月22日ベルリン12本目はStaats Oper Unter den Lindenにて24年新演出のオペラ、ドヴォルザーク『Rusalka』。HPの写真にザムザがいて、どういう話/演出なんだ……?カフカイヤーだったから……?期待を抱いて劇場へ。まずはリンク先で舞台写真を確認してほしい。


 水妖ルサルカは手の届かない存在である王子と恋に落ちた。人間の世界で居場所を得て、王子の近くにいるため、話す力を失う代わりに変身する。しかしルサルカは自分の本質に逆らって生きてゆけるのだろうか? 自らのアイデンティティを否定しなければならなくとも、愛は続くのだろうか? 作家ヤロスラフ・クヴァピルは、数々のメルヒェンや神話を題材に、心理的-象徴主義的作品を作り出した。アントニン・ドヴォルザーク最初の成功作ひである華麗できらきらと変化するスコアは、真の傑作であり、重曹的な意味内容の幅広い可能性を開くものである。

https://www.staatsoper-berlin.de/de/veranstaltungen/rusalka.12156/#medien

指揮 Robin Ticciati
演出 kornél Mundruczó
舞台美術/衣装 Monika Pormale
照明 Felice Ross
映像 Rūdolfs Baltinš
振付 Candas Bas
コーラス演出 Gerhard Polfika
ドラマトゥルギー Kata Wéber, Chritoph Lang
出演 Chritiane Karg, Pavel Černoch, Anna Samuil, Mika Kares, Anna Kissjudit, Adam Kutny, Clara Nadeshdin, Regina Koncz, Rebecka Wall Rothm, Ekaterina Chayka-Rubinstein, Taehan Kim, Staatsopern Chor, Staatskapelle Berlin

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座席からの見え方を写真で確認できます


 まずStaatsoper, Unter den Linden はクラシックな馬蹄型劇場のため、想像以上に見切れ席が多い。最初から立ち見席にしているBayerische Staatsoper の方が幾分親切かもしれない。上手脇の我々は灯体が邪魔で上手側の4分の1がどう頑張っても見えなかった。少々空きがあったので、同じ並びの観客と話し合って2幕からは中央よりにずれたが、それでも上手奥で起こっていることはわからないまま終わった。狩人はカーテンコールで存在を知ったくらいだ。
 世界中にある異種婚姻譚の一種。演出はモダンで極めて率直、本質的な読みだと感じた。階級差を三階建てのセットで表現しているのだろうか。スペクタクルでありつつ、男によって階層を上がり男によって階層を下げられる女、という権力関係の象徴にも見えた。裏切り者の男は殺されることになる。
 第一幕。ベルリンのアパート、ごく普通の一室、リアリズム。陽キャな同居人の水妖ギャル三人がウェイウェイアゲアゲho ho ho と陰キャワッサーマンをからかい、ド陰キャルサルカはバスタブに引きこもって出てこない。上手奥にバスタブがあるため、王子との出会いなどが全く見えず、初見の私はどうして恋に落ちたのかがわからぬまま話が進む。おそらくすでにお互い好きあっていて、「わたしみたいなダサい女の子、リッチでイケメンな彼には釣り合わないもん」だと思われる。ワッサーマンがLIDLのショッパーに空のペットボトルや缶を入れ、回収へ出しに行く描写は笑った。魔法使いたるイェジババはスウェット姿のソーシャルワーカーなり出張美容師なりに見える。メイクと体躯が『リトル・マーメイド』のタコおばさんだ。「これが…わたし……!?」ヘアカットと新しい洋服のスタイリングでオシャレなモテ女子に変身したルサルカ。声を出すと呪いが発動してしまうので、黒のガムテで口を塞ぐ。なんやかんやあって(上手奥のことはわからない)文系イケメンぼっちゃんがルサルカを連れ出して(見えないから想像)一幕おわり。
 第二幕。セットが奈落へ落ちていくと、上階の王子宅、オシャレなペントハウス(というのか?)が現れる。つまりこのあと地下の場面もあるから三階建てのセットか、さすがオペラだスペクタクルだ、これだけで楽しい。ハウスパーティの最中、隣の部屋でセックスに持ち込もうとして拒否され不満げな王子。バルコニーで暴れるルサルカの音が下の階に響き、「上階うっさいな」とホウキの柄で天井をドン突くワッサーマンに会場が湧く。王女=カースト上位ハデ女子は朗らかで嫌味な感じがない。
 第三幕。再び下階アパートの一室。ルサルカが巨大ヒル×タガメのような姿に。かなり気味が悪い。豊かな髪の毛はボサボサ→オシャレボブ→スキンヘッド。オリジナルでは「元の姿に戻る」だが、「下手な擬態能力さえ失い本来の醜い姿が顕になる」としているようだ。王子関係者が来訪する場面、イェジババによるヒル大召喚パニックで場内爆笑。イェジババが呪いを解くには王子を刺し殺せとナイフを渡すが、できないとルサルカは拒否。セットが上がり、地下世界へ。下水施設のようだ。かわいそうすぎる。死のキスは噛みつきで表現。終幕。
 一瞬も飽きることなく楽しんで見られた。全員むちゃくちゃ芝居がうまい。身体的にかなり自由だ。正面切って棒立ちで歌う画がほとんどない。心情吐露の歌唱で歌い手が動けない時は、周りの歌手や助演たちが動きと所作で場面を語る。このミザンは演出家の振付家の共同仕事だろうか。
 三幕のルサルカは水棲生物の衣装というか造形物に下半身を取り込まれ、相当の時間をプランク状態で歌わなければならない。かなり小柄で160cm前半程度に見えたが、パワーとスタミナ、身体能力と歌唱力に脱帽。陽キャギャルな三人の水妖も、ジャンプしながら歌うのに声がブレない。わたしはかなり面白く観たので、27€(現在のレートで4,400円程度)だからと見切れ席にしたことを少し後悔した。円安がひどくなければもう一つ上の席を買えたのだが。

2回ブーイングが聞こえた以外はブラボーの嵐
一階席の人たちはどんどん前へ寄っていき
盛大な拍手を送っていた

ドイツで観られるお芝居の本数が増えたり、資料を購入し易くなったり、作業をしに行くカフェでコーヒーをお代わりできたりします!