読書と今の悩み

たった今、村上春樹の『女のいない男たち』を読了した。図書館の返却期限が来週に迫っている。延長したが17日には返さなくてはならない。借りてきてから全く手をつけていなかったが、今日は休みで、外は雨で、15時に散髪の予約を入れているがそれまで特に予定はない。観たい動画も特に無い。というわけで、読書をするにはうってつけだった。ASIAN KUNG-FU GENERATIONをBGMに、2時間半かからないくらいで読み終えた。

昔から本を読むのは速いほうだ。とはいえ、最後までほぼ息継ぎなしで読みきることができたので、比較的読みやすかったのだろう。短編集だから、ある程度読むと区切りがあるのもありがたかった。タイトルの通り、どちらかといえば喪失感のある話だが、淡々とした語りなのも、今の気分に合っていた。

村上春樹作品は、まだ高校生か中学生くらいのときに読んだ『はじめての村上春樹』だったか、ティーン向けの作品集がかなり抽象的だったために、よく分からない話、という印象が強かったが、『女のいない男たち』は普通の小説として読めた。この表現が正しいのかは分からないが。ドーナツの穴を羊男が探すような、比喩しかないような話ではなかった。深読みできているかは分からないが、少なくとも表面的に何が起こっているかは理解できた。

しかしその深い苦悩と苦痛の中にあっても、たとえ一時的にではあるにせよ、僕に未使用のスカッシュ・ラケットを遺すことを伝えるだけの意識は戻せたようだ。あるいは彼は何かしらのメッセージをそれに託したのかもしれない。自分がなにものであるか、末期近くになって彼には答えらしきものか見えてきたのかもしれない。そして渡会医師はそのことを僕に伝えたかったのかもしれない。そういう気もする。

村上春樹『女のいない男たち』収録、『独立器官』より抜粋

現代文のテストだったら、「自分がなにものであるか」のところに線が引かれて、「具体的に渡会医師はどのようなことを「僕」に伝えたかったのでしょう」という問題が出るだろうな、と思った。記述ならどう答えたら正解になるのだろう。これより前の文章に、ラケットが僕には軽すぎるし、その軽さが痩せ衰えた彼の身体を思い起こさせるのでほとんど使っていない、という記述があるので、そこにヒントがあるのだろうな。選択肢を選ぶ問題なら、どれもしっくり来なくて悩むような気がする。なぜかこの話だけはこんなことを考えてしまった。

実際のところ、この話が一番ズンときたかもしれない。器用に複数の深入りしない恋人との付き合いを楽しんでいた小綺麗な成功者の男性が、一人の女性に真剣になってしまって、その上彼女に手酷く裏切られて命を絶つ。彼女をこれ以上好きにならないようにするにはどうしたらいいかと悩み、彼女の短所を羅列してみてもそこも含めて愛してしまっているため効果がなく、今までのような振る舞いができなくなる。

過去の恋愛と、今の恋愛に思いを馳せる。誰を好きになるかっていうのは、ある意味で自分の意志とは関係ないよな、と思う。選べるならもっと楽な人を好きになりてぇよ。しょっちゅう会えて、関係を築くのになんの支障もない、条件の整った人をすんなり好きになれたらどんなにいいか。でもそうじゃないんだよな。そういう条件を超越して何かに惹かれて、でも理性があるからガンガンにブレーキを踏む。それでもどうすることもできない。

収録作品の全てに、淡々とした描写ではあるものの、性交の描写が出てくる。半分くらいは、別段相手に惹かれてもいないけど行われる行為。それが私にはやはりどうも理解しがたいように思う。男性なら分かるんだろうか。或いは私がそういうところが欠けているからよく分からないのだろうか。収録作『イエスタデイ』の木樽くんの感覚のほうが私には分かるように思った。幼馴染みの彼女のことを愛しているけど、キスはしてもその先には進めない。その感覚は分かる。

いま私には好きな人がいるけど、その人とそういう粘膜的な接触をしたいかというと、それは別にしたくないな、と思う。そういうのが想像つかないし、それがないと関係が成り立たないならかなり重荷だ。前の恋人とそういう行為はしたし、向こうは会うたびそれを求めてきたけれども、本当はそんなことせずに一緒に過ごす時間がほしかったな、と思う。当時もハッキリそう思っていたし、なんなら伝えもしたけれど、その主張は受け入れられなかった。必ずそういう流れになって、場合によっては気持ちがついていかなくて上手く行かず、ほぼ毎回のように泣いた。

本当は中学生とかそれくらいのときに、そういった接触を伴わないピュアな恋愛ができるときにしておくべきだったんだろうか。いい大人になった今、恋愛と肉体関係は切っても切れないものになってしまった。そういったことをしたいと思わないのに、好きだから一緒にいたいなんて、言ってもいいものなんだろうか。最近はずっとそれに悩んでいて、今回の読書でより悩みは深まった、ような気がする。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?