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忘れられない映画

【素晴らしき哉、人生】

私には忘れられない映画があります。
生涯を通して一本の映画を挙げよと言われたら迷わず選ぶのがこの「素晴らしき哉、人生」1946年のフランク・キャプラ監督の映画です。

そんな昔の映画ですから、当然映画館のスクリーンで観る機会はないと思っていましたが、FBFからの情報で田端の小さなミニシアターで年末に観る機会を得ました。
15人から20人くらいしか入らない小さな小さな映画館で、スクリーンも小さくて。それでも朝10時からの上映に、6、7人いたことに驚きました。

あれは東北大震災の前の年だから、2010年のこと。
元来脳天気で一晩寝れば大概のことは切り替えられる私が、珍しく人生に行き詰まってしまったことがありました。細かいことは省きますが、親友は「死ぬんじゃないかと心配した」そうで、私も実際どうやって生きていけばいいのかわからなくなったことがあったんです。そんな時になぜこの映画に出会ったのか、今思えばそれも不思議なことでした。
この映画は私に「もう一度生きる力」を与えてくれました。大袈裟ではなく映画にはそういう力があります。

世の中には一生懸命働き、真面目に生きてきたつもりでもどうにもならない運命に引っ張られることがあります。

この映画、出だしは天使達が次に救う男の話をしています。羽根のない天使に人救いをさせて、羽根をつけさせてやろうという訳です。
そこでその助ける男に選ばれたのがジョージでした。一見幸せそうに見えるのに、「いや、まもなくこいつに不幸が訪れ死のうとするから救いなさい」
天使というから、愛らしいほっぺの膨らんだ若い子をイメージしたら大間違い。かなり年配のおじさんです。

その主人公ジョージはいつも前向きで彼には夢がありました。困った人は放っておけなかったし、誠実な人生を歩んできたのに、なぜか思うような人生とはならず、何度も何度も挫折を味わいます。

子供の頃には氷の割れた池で溺れた弟を救い、その時自分は左耳の聴覚を失います。またある時はバイト先の薬局のおじいちゃんが調合を毒薬と間違えたことにも気づいて、間一髪危機を救います。そんなジョージには、世界に羽ばたいて建築家になる夢がありました。さぁ、海外へ行って勉強するぞという矢先、父が急逝します。やむなく家業の銀行を継ぐと、自分の夢はどんどん後回しになっていくのです。それでもジョージは、最愛なるメアリーという伴侶を得て、一生懸命銀行で市民の為の経営をします。ところがある時、共に働く叔父が大金8000ドルを紛失してしまい、それがないと倒産を免れず、失意の底に沈みます。クリスマスだというのに、みんなに迷惑をかけてもう生きてはいけないと彼は橋の上に立ち、身を投げようとします。

ここで天使が彼の自殺をどうやって阻止するのか。
これが意外で、実際に彼は自殺を踏みとどまるんですが、そうかこんなやり方があったかと私は関心してしまいました。
全部書いてしまうと面白くないので、種明かしはしませんが。

天使のクラレンスに自殺を止められたジョージは「生まれて来なければ良かった」と言います。そのことを聞いたクラレンスは、ジョージに「ジョージがいない世界」を見せてやります。
その世界では、ジョージが愛した街を悪役お代官様みたいなポッターが支配し、友達も母もジョージのことを知らず、右腕だった叔父は精神病院に入院してそこは絶望に満ちた世界でした。その世界を見たジョージにクラレンスは「一人の人間の人生は、大勢の人生に影響を与えているんだよ」と言うのです。

「友ある者は、敗残者ではない」
天使のクラレンスがジョージに残した言葉です。

奥さんが夫の様子がおかしいと町の人に助けを求めると、それまで彼に助けてもらった人々が彼の為ならと寄付をして、たちまち8000ドル以上のお金が集まるのです。

捨てる神あれば拾う神あり。諦めないこと。途中で投げ出さないことを教えてくれる話でした。
私にもこの映画と同じような事が起こって救われたので、この映画は私にとっては特別以上の映画になりました。

今も放映されているかはわかりませんが、アメリカではクリスマスに見る定番映画なんだそうです。絶望から立ち上がる主人公と、それを支える天使と大勢の人が見せる奇跡。機会があればぜひという一本です。

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