インドネシアのカフェブームが東京へ「飛び火」
僕が5年前に初めてインドネシアの首都ジャカルタに取材に行った時、現地通訳との打ち合わせで指定されたのが現地の街カフェのアノマリコーヒーでした。広々とした3階建の店内は心地よく、出てきたアイスラテを一口飲んで、「これまでに飲んできたコーヒーと全然違う」と驚かされました。
その後、ジャカルタポスト紙に在籍していた時は、ジャカルタ中心地に位置するショッピン グモールのStarbucks Reserveに足繁く通っていました。店内を見回してもたいてい地元っ子の姿はなく、 外国人駐在員と思しき人ばかり。その頃から、現地と外資で分断されているように見えるインドネシアのカフェ市場っておもしろいなと思っていました。
だんだんと分かってきたのが、インドネシアのコーヒー文化が、Warungと言われる伝統的屋台から若者中心の現地カフェチェーンへと移行してきているということです。
コーヒー大国インドネシア
インドネシアはもともとコーヒー大国です。2020年の統計によると、同国はブラジル、コロンビ ア、ベトナムに次ぐ、世界第4位のコーヒー生産国。チェーンの コーヒーショップの店数が2016年〜2019年の間に3倍の3000店まで増えたという統計もあるほどです。
日本でもマンデリンやトラジャはよく知られ、ジャコウネコのフンから採れるコピ・ルアクも認知度が上がってきているイメージです。
インドネシアには実は、ユニークなコーヒーの飲み方がたくさんあります。例えば、ジョグジャカルタにはKopi Jossという熱々の炭を入れて飲む方法がありますし、スマトラにはドリアンと混ぜて飲むKopi Durianなんてものも。
2019年の日経記事は、コピ・クナンガン(17年創業)やフォレ・コーヒー(18年創業)が中間層を対象に手頃な価格で コーヒーを急成長している、と紹介しています。ちょうど中国でラッキンコーヒーが資金調達を重ねて急成長したように、インドネシアでもカフェチェーンへの投資マネーが相次いで流れ込みました。
その他、インドネシアではコピ・ジャンジ・ジワ、コピ・クロなど多くのカフェチェーンが誕生しました。ジョコ大統領の次男カエサン・パンガレップ氏もカフェのテルナコピを経営していることで知られます。これら現地街カフェはSNS、特にインスタを使ったプロモーションを得意としています。この一大カフェブームの波に乗って、マクドナルドなどの外食チェーンも積極的にカフェを併設するようになりました。
エンタメ業界でもカフェは注目を集めました。2015年、理想のカフェをオープンすべく若者が奮闘する模様を描いた映画『Filosofi Kopi』がヒット。同作は
インドネシア人作家Dee Lestariによる同名短編小説をもとにしており、この一編を含む短編集はすでに日本語に翻訳されています。(僕は原文と日本語の両方を読みましたが、インドネシアのカフェ文化の実際を知る上でいい教材だと思います)
さて、そのインドネシアの街カフェチェーンがいよいよ日本に初進出を果たしました。
インドネシア街カフェが原宿に進出
2020年12月、東京・原宿に出店を果たしたコピカリアンです。インドネシアでは3店舗を展開中のチェーンです。
日本でのオペレーションを担当するケニーさんが取材に応じてくれました。お祖父様の代から家業がコーヒーだったとのことで、ご本人のコーヒーについての知識は豊富です。
「インドネシアからの出店ということで、インドネシアののコーヒー文化を日本の皆さんに紹介したい」と意気込みます。
看板メニューのアイスコピカリアンはインドネシア風のホワイトコーヒーで、パームシュガーが使われています。飲むとほのかな甘味が口に広がります。
ケニーさんによると、目標の一つは日本ではまだあまり流通していないちょっとマイナーなインドネシアのコーヒー豆を日本に紹介し、現地の小規模農家をサポートしていくことです。
少し前まではジャワ島のコーヒー豆しか提供してなかったのですが、今夏からはスラウェシ、フローレス、パプアなどさらに広い地域の豆6種を販売するように。インドネシアで人気の大豆発酵食品のテンペもラインアップに加わりました。
もう一つの売りが店内の落ち着いた空間です。インテリアデザインをジャカルタのショップと似 たような歴史的な感じを演出しており、20代の女性にも「おしゃれ!」と楽しんでもらえる雰囲気があります。実際僕は何度かこちらを訪れているのですが、日本在住のインドネシア人だけでなく、むしろ原宿に遊びに来たような若い日本人客の割合がどんどん高くなってきている気がします。
インドネシアの街カフェブームについては、5、6年前くらいから始まり、流通の改善という要素が大きかったとケニーさんは話します。一例として、オーストラリアから輸入される牛乳が市場に出回るようになったことを挙げていました。
米国などへの海外留学したことがあり、バリスタの経験もあるような若者がインドネシアに帰ってきて「カフェがない、それなら始めよう」と思い立ち開業するパターンが多かった、とケニーさん。
気になるスタバと現地街カフェの違いについてのケニーさんの見方はこうです。
「スタバはインドネシアではマップ(注:MAP BOGA ADIPERKASA)という会社がライセンスを持っています。新しいモールができると(スタバが)入居できるようになっています。モールの外ではスタバは一般のカフェにかなわないのではないかな、価格の面で」
インドネシアで街カフェをオープンする人たちは日本の珈琲店を参考にすることも多いとのこと。「インドネシアの飲⻝関連はかなりジャパナイズされてますね」
コピカリアンの日本進出は日本とインドネシアのカフェ文化の融合という点からも注目です。
(12月7日午後10時24分:「コピ・ジャンジ・ジワ」に訂正)
(12月7日午後11時02分:ジョコ大統領の次男が運営するカフェについての情報を追加)
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