旅と酒場と男と女 ~真冬の札幌、「ザンギ」で呑りたい~
バイクに乗っていた頃、北海道を一周する計画を立てたことがある。
そこで知ったんだ。北海道の大きさを。
ただ走るだけならいいけど、行った先々で酒を飲むことを想定していた俺としては、5日間の連休じゃどうにもならなかったことを覚えている。
それから10年以上が経ち、仕事で訪れた初めての北海道。
仕事といっても研修旅行で、半分以上は接待を受ける意味合いが強い。
1泊という限られた時間で、いかに食べたい肴で呑るか。
公式のスケジュールも考えたら、無駄な時間は一切ない。
昼前に新千歳空港に到着し、そのまま余市へ。目的は「余市蒸留所」だ。
敷地内には「ニッカウヰスキー」創業者である竹鶴政孝さんが、妻のリタさんと暮らした家が移築されている。
この家で竹鶴さんは、毎日「ハイニッカ」を1本空けていたというから驚きだ。
日本に美味いウイスキーを残してくれたことに、ただただ感謝とリスペクトしかない。
すすきののホテルにチェックインしたのは夕方頃。18時からの会食までは自由時間となる。
対応すべき仕事を15分で片付け、ホテル周辺を徘徊するのが出張時の俺のルーティーンだ。
ホテルから歩いて数分。この日もいい感じに色気のある酒場に出会った。
北海道に来たら「イカ刺し」と「ザンギ」で一杯呑ると決めていた。
まずは「刺身盛り合わせ」と「ポテトサラダ」を注文。もちろん、盛り合わせにイカを入れてもらうことも忘れずに。
鮮度の高いイカは本当に透き通っている。
海のない埼玉県で生まれ育った俺は、白いイカしか食べたことがなかったが、北海道は違う。
北海道の「イカ刺し」は噂通りの半透明だった。カルチャーショックとはこのことだ。
このビジュアルだけで「アサヒ スーパードライ」をもう一杯おかわり!
「ザンギ」もいきたかったが、揚げるのに少し時間がかかるらしい。
さすがに会食に遅れるわけにはいかないのでここは断念。
会食の後に「ザンギ」&「サッポロクラシック」と決め込もうじゃないか。
一軒目は寿司屋。
L時のカウンターに座り、熟練の職人が握る寿司をいただく。
もちろん、新鮮なイカもいただいた。歯に触れた瞬間、鮮度の良さが伝わってくる。
お酒もすすむ。
二軒目はバー。
落ち着きのある上質な空間でいただくのはもちろん「竹鶴」。そして「余市」だ。
蒸留所を見学したばかりだけに、いつも以上に味わい深い。いつまでも飲んでいたくなるバーだ。
会食が二次会で終わると思っていた俺は甘かった。
三軒目はお姉ちゃんのいるお店。
ここで「ラーメン」「スープカリー」の美味しいお店を教えてもらった。
札幌来たら、この二つも食べとかないとね。
四軒目は居酒屋。
明日のスケジュールを確認するためにもう一軒行こうってことになった。
もうすぐ日付が変わろうとしている。
「ザンギ」なし。「イカ刺し」あり。まったく、北海道のイカはどこで食べても美味いな。
サクッと終わるはずが、けっこう飲んだな。
「ラーメン食いに行きましょう! 美味いってお店教えてもらったので!」
あれ? いつの間にか俺が先頭になってんじゃん?
5軒目はラーメン屋。
「味噌ラーメン」を注文後、「札幌といえば味噌でしょ。」なんて話をしていたら大将が一言。
「お客さん、札幌、函館、旭川の違いはスープじゃないよ。
麺が違うんだよ。
札幌ラーメンは中太ちちれ麺。ちなみにうちの一押しは醤油ね。」
知らなかった。ってことで「醤油ラーメン」も追加で注文。
生ビール3杯とラーメン2杯を完食。
18時から7時間超に渡る会食はここでお開き。
みんなでホテルへ戻り解散した。
いやー、食ったし酔っ払った。
シャワーを浴びてベッドに横になる。
満足満足。
札幌の夜もこれで終わ……れない!
何をしているんだ俺!
「ザンギ」で一杯呑るんじゃなかったのか?
こんなところで終わらせてたまるか!
再び着替えた俺はホテルを飛び出した。
真冬の札幌。空気は冷たい。
シャワーを浴びてからだからなおのこと寒く感じる。
これは早くお店を見つけて入らないと風邪をひいてしまいそうだ。
夕方に行ったお店はもう閉まっている。
まだ開いていた居酒屋に入ったが、「ザンギ」はなくビールだけ飲んで出た。
とにかく「ザンギ」を求めて街中を歩き回った。
あまりの寒さに心が折れかけたとき、後ろから声がした。
「お兄さん、一杯だけでも飲んでかない?」
声の主は、真冬に似合わぬバニーガール。
それがおかしいんだ。
その瞬間からパタッと記憶がない。
ホテルにどうやって戻ったのかも覚えていない。
札幌の夜、午前2時からの記憶がすっぽり抜け落ちている。
わかっているのは、次の北海道こそ「ザンギ」を肴に一杯呑りたいと、今でもずっと思っていることだけだ。
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