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「逢沢りく」ほしよりこ を読んで


2016年の漫画。第19回手塚治虫文化賞大賞を取った作品。

ギャグのセンスのよさ、物語の構成。
会話のタイミング、流れ、その肩肘はらないラフな関西弁と毒のある会話の中にも温かさがにじむあけっぴろげな家族の会話のやりとり。

それと対照的な主人公、りくのクールな応対。
だけど、なんかりくのクールな応対が関西人には格好のいじりとなり、かえって間のいい突っ込みになっているのがおかしくて。
りくがクールに反抗すればするほど石川家の、いや、関西人のパワーなのか?返しが俊逸になるという、りくにとっては恐るべき事態。

りくの渇ききったカラカラの心情が、他人への疑心が、自分以外、信じられるものがない冷たい世界が、意外なカタチで揺らぎはじめる。
チイ坊なる鳥がキーとなる。

人ではなく、忖度ない生き物が自分のいない状況での会話を再現してるのを繰り返し聴いているりく。
そこには駆け引きも、忖度もない。

りくの内面の渇いた心にちょっとづつ水が沁みて行くように、人としての大事な軸の部分に血が通いはじめていく瞬間だったと思う。

学校の屋上でただ風に吹かれて何か考えているようなりく。
あの時、今、自分を取り巻く様々なものに思いを心から、違う角度から考えるという事をしていたのでは?と思う。

そしてラスト。
時男の電話で「大人は間違えるの、でも許してあげるの」の言葉に震えてしまった。

「許す」ということ。
そして自分(りく)の中にある寂寥感に。
寂しくて寂しくてしかたがなかった自分の心にフタをしてきた自分。
それが当たり前になっていた自分。
それにやっと気づき、向き合えたりく。
悲しみをコントロールするのではなく、コントロールできない、ほとばしる自分の感情、悲しみをやっと吐き出せた瞬間。
誰も見ていなくても泣けた瞬間。
乖離していた自分の身体と心が一体になったんだと思う。
辛いけど、それはこれからのりくの人生に必要な、大事な通過点。

おめでとうって言いたい。
新しいりくが解放された瞬間。
りくに、本来のりくに帰ってきてくれてありがとう。
おめでとう、りく。って。


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