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NO.16 随分久しぶりに芥川賞受賞作品をリアルタイムで読む

もう随分長い間芥川賞受賞作品をリアルタイムで読む習慣はなかった。

たまに気まぐれを起こして単行本を買って読んでもどこが面白いのかさっぱり分からず、最初は自分の感性が衰えたのかといぶかり無理して読んだりもしたけれど、いつからか受賞作が何なのか誰が受賞したのかにさえ興味を無くしていた。

今年上半期の第163回の受賞作2作品にも全く感心がなかったけれど、たまたま新聞で受賞者の1人である高山羽根子さんのインタビューを読みその人物に興味をひかれ、受賞作「首里の馬」が掲載された『文藝春秋』を(何年ぶりかに)入手し読了した。

これがなんと実に面白かったのだ。

選考委員の1人(9人の選考委員のメンバーの顔ぶれも随分様変わりしていて驚いたけど)松浦寿輝さんはこの小説について選評にこんな風に書いている。

「高山羽根子「首里の馬」がずば抜けて面白い。きわめて「馬鹿ばかしい」発想の小説だが、この「馬鹿ばかしさ」は小説という物語形式の本質的魅力に触れているめざましい達成だと思う。(中略)非日常のSF的世界と、沖縄というフォークロア空間との絶妙な釣り合い。奇抜なユーモアに満ちた思考実験として第一級の作品と思う」

確かに、物語の舞台であるしょぼくれたミュージアムの資料データベース作成作業と、世界各地の孤独な人々とのコミュニケーションとしてのクイズゲーム、その両者を結びつける「ヒコーキ」という名前の宮古馬の存在の謎は最後まで明らかにはならないけれど、不思議に満ち足りた微かな幸せに満ちた読後感はとても心地よい。

この作家の今後に少し注目したいと思います。

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