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鉄(鉄分)のよく知られている役割と意外な役割

ミネラル一つである鉄は、よく知られている役割もあれば、ほとんど知られていない役割もあります。

今回は、そのアウトラインを説明するとともに、個人差があって分かりにくい鉄の必要量についても解説します。
(記事の文末に動画を貼っています)

鉄はエネルギー産生の要

鉄は、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの材料となるミネラルです。
ヘモグロビンは、グロビンというタンパク質と鉄が結合した物で、主に酸素を運搬する役割を担っています。

呼吸によって体内に吸い込んだ酸素は、肺でヘモグロビンと結びつき、心臓のポンプで押し出され、動脈を経て体の各組織へ運ばれていきます。
そして、末端の細胞でエネルギー代謝の際に使われます。

下は、エネルギー代謝をかなり単純化した図です。

一番上、グルコースorグリコーゲンと書いてあるのはブドウ糖のことです。
一つのブドウ糖が解糖系、TCA回路を経由して、最後の電子伝達系という所でエネルギーのほとんどを生み出します

その時に酸素(O2)が必要になります。
ここで酸素不足だと、作り出せるエネルギーはごくわずかです。

もう一つ、今の図のTCA回路を抜き出した図です。
TCA回路の一つ一つの化学反応に必要な栄養素(補酵素)を表したものです。

よーく見ると、鉄も2箇所、このサイクルに関わっていることが分かります。

つまり、鉄が不足すると、酸素不足とTCA回路を回す補酵素不足という、二重の原因でエネルギー代謝が滞るということです。

鉄不足で起こる症状

そうなると、どれだけ多くの症状が現れるのか、挙げていきます。

●疲れ・だるさ・・・筋肉が酸欠状態になるとエネルギー不足で、疲れやだるさが現れる。
●肩こり・・・エネルギー代謝がうまくいかず、乳酸が溜まって肩にこりや痛みが生じる。
●動悸や息切れ・・・全身の組織が酸欠状態になると、心臓の鼓動を速めて、大量の血液を流して酸素を供給しようとして動悸が起こる。これは呼吸を速めてしまうため息切れが起こる。
●めまいや頭痛・・・脳が酸欠になると脳細胞が正常に働きにくくなるため、めまいや頭痛などの症状が現れる。脳の重さは体重の2%に過ぎないが、酸素消費量は全身の1/4を占める

鉄不足の状態だと、肌にもダメージをもたらします。

●顔色が青白くなる・・・鉄不足により血液中のヘモグロビン(赤色)が少なくなると、皮膚や粘膜の赤みがなくなり、顔色が悪くなる。
●シミが増える・・・肌への酸素供給量が減って肌の新陳代謝が低下し、シミができやすくなる。
●ハリがなくなりシワが増える・・・体内でコラーゲンを合成する際、鉄、ビタミンCが必要。

また、神経伝達にとっても重要な栄養素なので、
●注意力の低下、イライラ感、食欲不振、抑うつ感、といった症状が出ることもあります。

このように、鉄不足によって起こる症状はじつにさまざまだ、ということが理解できたかと思います。

鉄はリサイクルされる

ヘモグロビンの話ばかりしましたが、体内の鉄はヘモグロビンが60〜70%で、それ以外にも次のような場所に存在します。

20〜30%を占めるフェリチンは肝臓や脾臓などに存在して、貯蔵鉄として蓄えられています。

約3〜5%のミオグロビンはおもに骨格筋の中にあり、赤身肉や赤身魚の赤はミオグロビンの赤色です。

トランスフェリンはわずか0、1%に過ぎませんが(ここでは血清鉄)、体内で鉄を運搬するタンパク質です。
鉄を必要な場所に移動させるためのものであり、赤血球(ヘモグロビン)とは役割が異なります。

全身に酸素を運搬する赤血球の寿命は、約120日間です。
寿命が来ると脾臓で破壊されます。

その中の鉄は肝臓や脾臓で処理された後、多くは再びヘモグロビンの材料として再利用、リサイクルされます。

そのため、出血がなければ体外に排出される鉄は、1日1mg(便、尿、汗から)程度です

理屈上では、出血がなければ1日1mg補充すればよいということです。
それを前提に鉄の必要摂取量を見てみます。

鉄の必要摂取量は?

月経がある年代の女性、当然その分の推奨量が多くなっています。
それ以外の男性と月経なし女性の必要摂取量は1mgではなく、平均7mgであることが分かります。

これは、口から入れても、そのうちの一部しか吸収されないことを意味します。

しかも、こうなってしまう原因が、単に食品の吸収率だけではなく、さまざまな要因が絡んでくるのが、鉄のややこしさなんです。

それに関しては、もう一つの記事【鉄の効率的な摂取方法】で詳しく解説します。
(6月2日公開予定)

※出血についての補足

出血要因は月経に限りません。
がんや潰瘍による消化管出血や、痔などが原因で鉄が不足する場合もあります。

子宮筋腫や子宮内膜症などが原因で月経時の出血量が増えることも、鉄の必要摂取量を増やしてしまいます。

まとめ

鉄が不足するとエネルギー代謝が滞り、さまざまな症状が現れます。
●疲れ・だるさ 
●肩こり 
●動悸や息切れ 
●めまい・頭痛
●顔色が青白くなる 
●シミが増える 
●ハリがなくなりシワが増える 
●注意力の低下、イライラ感、食欲不振、抑うつ感

ヘモグロビンに存在する鉄はリサイクルされ続けるため、出血がなければ体外に排出される鉄は、1日1mg程度です。

しかし、実際の必要摂取量は7mg前後です。
これは、鉄の吸収がさまざまな要因で高くならないことが理由です。

この記事の内容については動画もアップしています。合わせてご覧ください。


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