ある闘争(あるいは、好みの本を当てる局地的戦闘の数々においての全敗北)
照 …ダメだったよ 。
『言いまつがい』なら間違いなく読むと思ったんだが、ダメだった…
四郎 あ、『言いまつがい』面白がってもらえんかったかー。
照 病院に持ってく前にさ、お姉ちゃんと弟くんと3人で一緒に川の字に寝そべって読んでさ。もう、ゲラゲラ笑ったの。
だめだったから持って帰ってきて、3回か4回読みなおした。弟くんなんか、毎日「ルパンだパーン」って、ずーっとずーっと歌ってるしさ。
四郎 あー。俺、その版なら、「狐につつまれる」いちばん好きやぁ。
照 お前の本のセレクションが効かない人間っているんだな。
四郎 いや、俺、人にあった本勧めることに慣れとるわけやのうて、読んどる本の総数が多いだけやん。
照 僕に「これ読む? これどう?」って言ってくれるもの、全当てじゃん。あ、そうだよ、パパさんの娘さんのも全当てしてるじゃん。
そうなんだよ、パパさんだけなんだよ、お前が出してくる本が、すっ…と入らないのは。
パパさんは、司馬遼太郎は全作品読んでるんだよな。
光人社NFの戦闘機、戦艦、開発録、その他もろもろも、全部読んじゃった。
シリーズが読み終えられていて、その横展開がないんだ。
いまパパさん、『坂の上の雲』読み直してるんだけど。
池波正太郎は、本、開かなかった。落語も、京極夏彦も、コナン・ドイルも、アガサ・クリスティも、塩野七生も、本、開かないんだ。開かないのと読んでみてだめというのが、まず線引きがわからない。
四郎 乱読タイプやない、てってことはわかった。歴史ものならいい、というわけでもない。
特定の作家の、読める・読めん、があるわけやん?
照 そう。
綾辻行人は、「読んでみてだめ」だった。
四郎 『言いまつがい』は、微熱あったり数値が上がらんとき、あんまり目と、つながりのある肝臓との労力を、読書に持ってってほしくないもんで、薄い本提案してみたんやけどさ。
たくさん笑ってもらえると、免疫系には、助けになりそうやしな。
こっちの都合というか、看護と養生の理屈は、きかんひとなわけやな。
いきなり『坂の上の雲』読み直し中やったら、字数の多さ、分厚さ、内容の軽さ、全然気にしとらんもんな。
照 それだ! それ! わぁ畜生、死にかけたんだから自分の読書の癖ぐらい変えやがれっての!!
四郎 血液の数値上がらんで、目と肝臓は養生につとめようか〜 てって発想は、ない人なんやな。
照 くっそ畜生、僕なんかこっちにかかかりっきりで有休全消化しちゃってんのに、もうほんとにPTAまで回ってきちゃって、思春期と小学生の子供二人相手で、料理洗濯風呂掃除生活習慣、しっちゃかめっちゃかなのに、ああ畜生!!!
四郎 お前の崖っぷち具合は、ようわかった。
なぁ、俺が新人のとき俺のこと会社に住みやすくしてくれたように、なんかかんか、休暇制度と就業規則いじってもらって、看護休暇取れるようにできやへんか。
照 他人のはできる。自分のことはできない!
四郎 うわー。
照 連休がせめてもの救いだ。会社が休みだから、欠勤が増えずにすむ。
なんか、いい思いつきを僕に当ててもらえる気がしないよ…
四郎 俺そこらへんのことうまいこと助けたれんで、ごめんやて。
前、できとったやんか、自分の待遇についても。
照 今、できる気が全然しないんだよ。ああ、僕疲れてるんだ。どこかに相談するって、健康な状態なら全然苦にならないことなのに、今、相談が無理感あるもの。
相談ってね。本当は、体力と信頼関係が、ものすごーく大きいボリュームで、必要なんだよ。
参ったな、僕の心身の健康管理は、ちょっと今、だめだな。
四郎 お前が参るんやで、相当やて。だいたい、そっちの親戚の生活拠点に出張してあげた時点で、ものすごい無理やん。
照 無理を4ヶ月、しのいじゃったなあ…仕切り直し時だな。
四郎 へたに本こっちで探さんといてさ、外出できるときに本屋さんやら図書館やらブックオフに、タクシーかなんかで連れてってあげる感じでええと思うよ。
照 本は、そうしよう。
なぁ、会いたいな。
四郎 そうやな、6月ごろにでも、一息つけたらええなぁ。
忙しくない人てって、何をどういうふうに、うまいことやっとるんやろ。
照 少なくとも親戚の窮地をなんとかしようなんて、はなから思わないんだよ、ある種の「忙しくない人」は!
四郎 笑って死ねる人生にするには、人を見殺しには、できんほうが、ましやん。
照 あはは。
…ばかだな、僕って。
四郎 ちょびっとだけ、楽な瞬間が、あればなぁ…。
「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!