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寝過ごして、起きて、開いて、閉じる

8月7日まではノンストップで仕事だな。(七月最終週から)

というあきらめの境地にいたら、「8月8日(土)も仕事予定しといて」。

は? はい? 何言ってんの? あっそう。 へーそう。 わかった、それなら子供さんたちのこと週末まで後回しにするの、やめるね。ごみ出しと、掃除と、なにがしかの野菜の入った総菜の作り置きと、風呂掃除をしてゆっくりふろにつかることと、とにかく次のアポ電の前に30分寝かしてもらうよ! それに年金事務所に持ち込む戸籍謄本その他の書類の点検な! そっち、先な!

僕はそれで、午後五時にさっさと仕事場を後にして、シャワーを浴びてからひとまず寝た。

4月5月以降、水道代が半端ないことになっているのだが、僕もお姉ちゃんも弟君も、外出から帰って最初に全身シャワーを浴びるという習慣は崩していない。で、湯を頭からかぶって、夏らしいクールミント配合のシャワージェルなんかで泡だらけになって、ざーっと全身の疲れを流していると、

「もうほんとつかれた、疲れたってばよ!」

みたいな発言しかできなくなるぐらい、疲れがどーーーーっと毛穴から噴き出してくる。下手に水シャワーじゃないほうが、たぶんいいと思う。湯で疲れを自覚するほうが、結果としては、いいんだろうと思うんだ。

で、Tシャツひっかぶって、いったん敷きっぱなしのマットの上に倒れこむ。一応アポ電は目が覚めたらかけるつもりでいる。

が、僕は自分をよく知っている通り、親友ほどではないが、電話はきらいだ。電話がきらいだ。くどいがもう一度いおう、で・ん・わ・が・き・ら・い・だ。

なので、容易に予想がつくとおり、目が覚めたらすっかり夜更けになっていて、アポ電が可能な時間帯は寝過ごした、ということになる。ここらへん、長期的には自分の稼ぎのためにはならないことは、わかっている。

だけど、気が済むまで、ここでもたもたしようじゃないか。僕はスーパーマンじゃないんだから。

それで、一人の時間をほくそ笑みながらじわじわ、じわじわと浪費して心身のリバランスを取る。そこへ、ちょっと思いついて、親友が子供のころやってたみたいに、本を一冊取って、「みくじ読み」をして閉じる。

(ちなみにちょっと脱線すると、プロテスタントの教義を論じた書物において、聖書の「みくじ読み」は禁じられている。背景の文脈をふっとばして断片的な読み方をすると、聖書の文言はどうとでも解釈できてしまって、まるで託宣サイコロ遊びみたいになっていくからだ。)

今日、手に取ったのは、デール・カーネギーの『こうすれば必ず人は動く』(ISBN978-4-87771-331-7 C0030)。

みくじ読みで開いたのは、172ページ。

ここではアリスという未亡人がどのように亡き夫のコーヒー事業を、病気をかかえ、子供たちをかかえ、手元に86ドルしかない状態からはじめて、五年で6つのレストランを持つ200万ドル事業にまで広げていったか、というインタビューが展開している。しかもカーネギーが、全財産をなくして再起不能だと便りをよこした中年男性のために、アリスを呼び寄せてラジオ番組講座でインタビューをし、放送しているのだ。アリスは200万ドルの事業を売却した直後、売却先が事業に失敗したために、六十歳すぎてからその再建に乗り出した、そこをカーネギーは便りをよこした中年男性のために、アリスをして語らしめているのだ。

みくじ読みで得た最初の言葉はこれ。未亡人のことば。

「勝利するためのただ一つの方法は、闘いのいちばん激しいところに踏み込んで行って、そこで闘うこと、それも勝つまで闘い続けることでしょう」

こっそり内緒話をしておくと。

僕は僕の親友に、ひとつだけ、「いつか書いて」と頼んだ話がある。

日本の農村地域において、ひどいひどい話だが、嫁に来た人は人として扱われず無償の労働力として使いつぶされ続ける。朝から晩まで働かされて家と地所から少しも離れられないため、ある日ついに弁護士をたてて境遇から脱出するまで、一度も近隣の町の地図と実景を照らし合わせたことがなかった、という話をしてくれた人さえいる。労働力搾取に加担する人は、だれかを踏みにじることで自分の負担が軽くなるのでそれを強いる。

こういう不正義がライトをあてられ、ただしく整理整頓されるさまを、どうにかしていつか書いて、と僕は僕の親友に頼んである。

奴が虐待経験からまがりなりにも頭一つ脱出して、他人と人並みに話ができるようになり、やがて人間として自立した暮らしが成り立つようになってから、の話ではあろうけれど、どうにかしていつか書いてと頼んである。

ーー僕は今夜はこのまま寝よう。僕と子供さんたちの暮らしは、まだ、まだ、途方に暮れるばかりだ。暮らしが成り立つまで、辛抱強く闘い続けることだ。

「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!