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[学生が考える] 映画から学ぶ印象的なプロモーション動画の作り方

 本記事はこのようなプロモーション動画やCMを作ってみたいと思った方向けのものです.上に挙げた動画は,学生の私がシナリオ製作・撮影・編集等を一人でおこないました.その製作時に学んだ作品の作り方や撮影技術・編集技術について誰かのお役に立てればよいと思いまとめた次第です.

 この動画は加賀の海外向けプロモーションが目的ですが,製作時のコンセプトとしてストーリー映像美の二つにこだわっています.映画のように引き込まれるストーリーがあること,そして映像自体が美しいという要素がこのプロモーションでは重要だと考えたからです.使用している機材自体は一般的な広告動画の予算と比べられないほど低予算ですが,チープさは感じにくいように作りました.これから映像美を作るための技術的な手法について書いていきたいと思います.

 映像というメディアは写真の延長にあります.動画を撮るためには写真に関する基礎知識が必ずいるので,動画を撮りたいという方はまず写真から始めるのが近道だと思います.写真を通して相手に何かの意図を読み取ってもらうための構図や光の表現など勉強になることがたくさんあります.

映像美とは何かを考える

 映像とは相手へのメッセージです.どんな動画にも作り手の意思があり,伝えたいことがあります.その「伝えたい事を100%相手に伝えるために無駄を省くこと」こそが映像美だと私は考えます.プロモーションビデオにおいては「綺麗な場所だな!」「素敵な体験ができそう!」「行ってみたい!」というイメージを持ってもらうために必要な要素だけを集め,それ以外の要素を徹底的に排除します.
 映画でも同じです.ストーリーだけに集中してもらうために役者や背景を設定し,それ以外の要素を極限まで減らします.

 ということは映画から見られる映像美の工夫を学ぶことで,PVなどにも役立てられることがあると私は考えました.魅力的だと思った映画や映像の特徴をまとめると以下のようになります.

無駄を省く要素
1. 背景のボケがあること
2. 手振れが少ないこと
表現したいものを印象的に見せる要素
3. スローモーションを使っていること
4. 肉眼やスマホ動画とは違う色の表現があること

 これらの条件をひとつひとつ追及することで映画のように美しい動画が撮れると考えました.

一つずつ解説していきます.

・背景のボケがあること
 映画を見ていると被写体ははっきりとしている一方で,そのとき背景にあるものはボケています.ある画面の中で一か所ピントが合っている場所があるとその一か所だけに目が自然と向かいます.「見せたいものだけを見せる」ということが画像・映像でメッセージを伝えるためには最も重要だからボケさせるという表現を使うのです.
 具体的な手法としては背景をボケさせやすい一眼カメラ(センサーサイズが大きく,F値の大きなレンズを使用できる)を使います.

背景がはっきりしている写真

背景がボケている写真

 2枚の写真を見比べると,2枚目の方が綺麗だと感じる人が多いのではないでしょうか.

・手振れが少ないこと
 映画の歩いているシーンや走っているシーンでは手振れが全くなく,視点が安定しています.アクション映画やドキュメンタリー映画ではあえて手振れを使って動きを表現しているものも多いですが,ゆったりとした物語ではカメラの動きもゆったりとしています.動画の目的に合わせてカメラの揺れ具合を合わせるというのも重要です.
 具体的な手法としてはジンバルとよばれるカメラを保持するための機材を使う(物理的な手振れ補正)か後でAdobe Premiere Proなどで編集(ソフトウェア的な手振れ補正)を使うなどの手法があります.


・スローモーションを使っていること
 上の動画は通常の速度のように見えますが,実際には全体的に60%から80%ほどの速度に遅くしています.これによって印象づけたい動きのひとつひとつが見えやすくなり,普段とは違って見えるためドラマチックに感じるはずです.映画ではワンシーンのみに使われることが多いと思いますが,このPVではゆったりとした雰囲気を出すためにもスローモーションを使用します.
 具体的な手法としては60FPS(Frame Per Second:一秒間に60コマの画像)で撮影した動画を,インターネットでの公開時には30FPSにしています.一秒間に60コマで撮影しているので,最大50%の速度でのスローモーション再生が可能です.

肉眼やスマホ動画とは違う色の表現があること
 簡単に言うと,インスタグラムなどのフィルター機能と同じように後から色を編集することが重要です.映像制作の用語ではカラーグレーディングと言います.カメラで撮影した映像はすべてカメラが自動的に選択した色合いです.肉眼とは異なりますし,自分が表現したい色合いではありません.そこで,映像の目的にあった色合いを自分で作り出すために編集時に色も変更します.
 今回の動画では優しい・やわらかい雰囲気を出すために,

・コントラストが低め
・肌の色や白色を少しピンクよりの色合いしている
・真夏の空が白とびしないようにハイライト(明部)を少し暗めにしている

などの編集をしています.
 これについて詳細な説明を書こうとすると専門的になりますし長くなるため,後日別の記事にまとめます(検索キーワード:LOG撮影,LUT)

美しい映像を撮るために必要な機材

 ここからは上記の様な要素を実現する機材と手法について書きます.ここからの内容は写真・カメラに関する基礎知識が少し必要で専門的になりますので重要なところは囲みでまとめておきました.その部分だけ流し読みでも大丈夫です.

1. カメラ(マイクロフォーサーズ,APS-C,フルサイズのカメラ)

 動画で使用したのはSONY a6300(販売終了.後継機はa6400,a6500) .オートフォーカスが速くと軽量なカメラがおすすめです.

 スマホやビデオカメラ・デジカメと一眼カメラの大きな違いは背景のボケです.正確に言うとセンサーサイズが大きくなることで被写界深度は浅くなる(スマホ<デジカメ・ビデオカメラ<一眼カメラの順でボケやすい)ため背景がボケる画像・映像も撮れるようになります.加えて,F値の大きなレンズを使用することで映画のようにボケが美しい映像を撮ることができます.

撮影に必要なカメラの機能:
・FHD撮影
FHD(1080p)の映像が必要.よほどのこだわりがない限り4Kは必要ない(現状多くのディスプレイやスマホは4K対応していない上,データが大きくなりすぎるため).
・スローモーション撮影
60FPSで撮影し,30FPSで再生したい.

 ここまでの機能は多くのビデオカメラ,デジタルカメラ,スマホでもできることです.しかし今回の動画撮影には上記に加えて以下のような機能や操作性が必要だと判断し,a6300を使用しました.

特にa6300を選んだ理由:
・背景がボケる映像を撮れる
センサーサイズが大きいカメラが必要だから.
・暗所,明暗差が大きい場所で撮影がしたい
センサーサイズが大きいカメラが必要.スマホやビデオカメラは一般的に明暗差が大きい場所での撮影は苦手な機種が多い.
・オートフォーカス性能が高い
・マニュアル露出で撮影できる
シャッタースピード,絞り,ISO感度を自分で設定する
・Log撮影ができる
 自分好みの色合い(明るさ,彩度)などを後から選べる.大きな明暗差も表現できる.

2.レンズ
 上記の動画はすべてこのレンズで撮影しました.2人から4人ほどの被写体と風景を撮影するには換算30mm程度のレンズがちょうどよいと思います.一般的な映画のレンズでは40mmから50mmが使われることが多いそうです.F値が大きいほど値段も高くなるのでお財布との相談も必要です.

このレンズを使用した理由

・ズームレンズ
 換算27mmの広角から157.5mmの望遠までズームできます.スペースが少ない場所では広角,印象付けてボケさせたいときには少しズームして使用しています.
・F4通し
 ズーム全域でF4固定なので動画に向いています.標準キットについている一般的なズームレンズは安価ですがF値が変動するため望遠すると暗くなります.そうなるとズームの都度に設定を見直す必要がありますが,その必要がないのがこのレンズの強みです.
・パワーズーム(電子ズーム)
ボタンでのズームに対応しているため,対応しているスタビライザーに取り付けた状態であればカメラに触れなくてもズームできます.
・レンズ内手振れ補正
 スタビライザーに取り付けるとはいえ,手振れ補正があることによりさらに滑らかな動画を撮ることが可能です.
・希望小売価格が63000円(2019年8月現在)
ネット販売では53000円ほどで購入できるため,同スペックのレンズの中では非常におすすめです.気になって探してみましたがこの価格,ズーム域,F値,パワーズームという条件では他者を含めこのレンズしかないと思います.動画を始めるならSonyを選ぶ理由の一つにもなるのではないでしょうか.
・鏡筒が金属製
 個人的な意見にはなりますが,マットブラックな外観は非常に高級感があります.重量は427gでカメラを含めても1㎏前後とかなり軽量だと思います.

 とかなりメリットを書いていますが本当に使いやすいレンズです.動画の場合4Kでも800万画素ですので画質も全く問題無いと思いました.

3. マイク
 動画撮影時に使用したマイクです.この動画では映像はスローモーションですが音声は通常速度・小音量で再生しています.環境音があったほうが映像の臨場感があります.

・電池不要
外部電源を使用せず,マイクの端子につなぐだけで使用できるため小型で便利です.マイクのON・OFFは無いので録音し忘れがありません.
・録音ボリューム
カメラ内の設定から録音ボリュームを決められます.

4. NDフィルター

 カメラ用のサングラスのようなもので,野外など光量が多い場所での撮影では必須です.

 なぜ必要になるのか例を出して考えてみます.まず昼間の野外で“写真”を撮る,

絞り:F4,シャッタースピード(SS):1/2000s,ISO感度:100 →露出±0

という光が十分(SSが速く,ISO感度はなるべく低く)な場面を仮定します.しかしながら,この設定は“動画”撮影時には使えません.なぜなら,動画のSSは一般的にFPSの1/2倍ほどが一番自然であるとされているからです.

フィルムで撮影していた名残からこの設定で撮るのが一般とされています.これに関しては個人の考えや諸説ありますので別の記事で書こうと思います.検索キーワード:SSとFPSの関係,シャッター角度

このSS 1/2000で撮影した場合,カクカクとして動き一つひとつにぶれのない不自然な映像になります.写真ではぶれのないものが良いとされますが,動画の場合は連続して動く物体を撮影する場合はぶれがないと不自然に見えてしまうのです.
今回の撮影時FPSは60FPSであることから,適切なSSは1/120ほどになります.

絞り:F4,SS:1/120,ISO感度:100 (SS2000から120は4段分露出オーバー) →露出+4

 しかし,このSSをそのまま設定した場合露出オーバーしますね.そこでNDフィルターが必要になります.NDフィルターはカメラのサングラスのようなものです.レンズに入る光を制限することにより,露出を下げることができます.

絞り:F4,SS:1/120,ISO感度:100 ,NDフィルター(露出-4段)→露出±0


これで明るい野外でも適切に撮影が行えます.使用したのは1~5段分の効果がある可変NDフィルターです.保護フィルター同様にレンズに付け,回転させる(2枚の偏光板の角度を変える)ことで明るさが変化します.室内では取り外し,野外に出たときに露出計・ヒストグラムを見ながら使用しました.

5. スタビライザー(電動ジンバル)
 電動スタビライザーとよばれる,手振れを小さくする機材を使用しています.これは映画製作などではよく使われる,カメラを載せる天秤のようなものです.

 モーターのついた3つの回転軸が,急な動きを打ち消す方向に動くことによって手振れが小さくなります.この機材にカメラを載せて撮影を行います.価格は30000円台から100000円ほどのプロ向けのものまであり,一般的に価格が高いほど手振れ補正の効果も高く,機能性もよいです.今回は後述する30000円台のジンバルを使用しましたが,十分な効果が得られました.ただ,カメラを合わせると3kgほどになるため長時間の使用は少し大変です.
 加えて,後処理的に動画編集ソフトで安定化処理を行っています.これはAdobe Premiere Proの“ワープスタビライザー”という機能で,動画を自動的に解析した後,中心のものがぶれないように切り出す処理です.デメリットとして画質が若干落ちるものの,非常に安定した動画になります.
この二つを使って動画を滑らかな動きにしています.

まとめ

 以上のような手法と機材を使って動画を作りました.機材の使い方や,撮影時の動きなどは動画の方が分かりやすいとは思いますので,興味がある人が多かったらまとめようと思います.
 次回はシナリオの作り方,音楽とストーリーなどについての予定です.

 ご質問等ありましたらコメントお願いします.



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