開幕戦から見えた変化の兆し~第1節ファジアーノ岡山VSツエーゲン金沢~

 ファジアーノ岡山がホームにツエーゲン金沢を迎えた開幕戦。新加入選手による新たな形や昨シーズンからの継続が垣間見える一戦となった。

試合結果

明治安田生命J2リーグ第1節

ファジアーノ岡山 1-0 ツエーゲン金沢
 【得点】
後半35分 FWイ・ヨンジェ

【選手交代】
後半18分 金子昌広→窪田稜(金沢)
後半29分 三村真→清水慎太郎(岡山)
     大石竜平→山根永遠(金沢)
後半37分 山本大貴→松木駿之介(岡山)
後半44分 加藤陸次樹→杉浦恭平(金沢)
後半45分 上門知樹→椋原健太(岡山)

@シティライトスタジアム(岡山)

マッチレビュー

スタメン

第1節金沢戦スタメン

【岡山】
・フォーメーションは4-4-2
・新加入のGKポープウィリアム、DF徳元悠平、MF白井永地、MF上門知樹がスタメンに名を連ねた。
・左サイドを務めることが多いFW三村真が右サイドハーフに抜擢された

【金沢】
・フォーメーションは4-4-2
・新加入のDF山田将之、DF下川陽太、DF杉井颯、FWルカオ、FW加藤陸次樹がスタメンに名を連ねた。


ルカオ封じ

 金沢は強さと高さを併せ持つFWルカオをターゲットに、ロングボールを集める攻撃を展開。前線でルカオがタメを作り、後ろから飛び出す選手を生かす狙いがあった。
 そこで岡山はルカオに入ってくるロングボールを徹底的に跳ね返すことで金沢の攻撃の威力を半減することに成功した。ルカオには常にCBの一枚がマンマークし、もう一枚がカバーをする。ルカオに二枚割くことを割り切り、徹底した管理体制を設けた。目立ったのはDF濱田水輝の空中戦の強さ。ロングボールにことごとく競りに行くことでルカオに自由を与えなかった。
 濱田が十分に跳ね返せず、ボールがこぼれてしまったときはDF田中裕介とMF白井永地が素早い出足で回収し、金沢に二次攻撃のチャンスを作らせなかった。


ポープウィリアムがもたらす新たなビルドアップの形

 昨シーズン正GKとして試合に出場していたGK一森純がガンバ大阪に移籍。2020シーズンの開幕スタメンを勝ち取ったのは一森とハイレベルなスタメン争いをしていたGK金山隼樹ではなく、川崎フロンターレから期限付き移籍で加入したGKポープウィリアムだった。192㎝のリーチの長さを生かしたセービングでシュートを防ぎ、無失点勝利に貢献した。
 ポープが加入したことで守備だけではなくビルドアップにも大きな変化をもたらした。岡山のビルドアップのポイントは如何にサイドバックに高い位置を取らせるか。
 昨シーズンの岡山のビルドアップは2枚の選手のセンターバックが開くことで幅を取ると同時にSBを高い位置に押し上げる。そのCBの間にボランチの一枚が下がることで3バックを形成。3バックで相手の前プレスに対して数的優位を作りながらパスを回していた。
 メリットは配球能力に優れたボランチが下がることで、安定したパス回しが可能になるということ。二枚の選手で前プレスをかけてくるチームが多いため、パス回しの過程で三枚のうち一枚はフリーになりやすくい。
 デメリットとしては、ボランチの一枚が下がるため縦のパスコースがひとつ減るということ。また、中盤の枚数が一枚減るためミドルサードで数的不利になりやすい。


今までのビルドアップ

昨シーズンまでのビルドアップの形

 開幕戦ではポープがペナルティエリアの外で、積極的にビルドアップに関与していた。金沢はルカオと加藤の二枚でプレスをかけてきた。この時、ボランチの一枚が下がるとマークに付いている金沢のボランチも連れてきて、押し込まれてしまう。そこで、上田や白井が下がるのではなくポープと田中、濱田の三枚でパスを回し、金沢の前プレスを掻い潜ろうとした。上田や白井が下がらないことで縦のパスコースを作りながら、相手ボランチをけん制することに成功。
 さらに、ゴールキーパーがフィールドプレーヤーのようにパスワークに参加することでピッチ全体で11対10の数的優位を作ることができる(相手GKは誰かをマークすることはないため)。前進したときの局面でズレが生じ、優位に立ちやすくなった。
 足元のスキルに優れているポープの加入によって昨シーズンにはあまり見られなかったビルドアップの形が生まれた。

金沢戦 ビルドアップ

ポープの加入による新たなビルドアップの形


左サイドの連動した崩し 

 昨シーズンの左サイド攻撃は柏レイソルに移籍したMF仲間隼斗の単独突破に依存する形が多かった。左サイドの攻撃の再構築が求められる中、開幕戦で得点にはならなかったが再現性のある連動した攻撃があったので紹介したい。
 前半23分、コーナーキックの守備の流れで三村が左に、上門が右にポジションを変えた。田中から徳元へパスが出る。ボールを持った徳元とタッチラインを背にした三村、フォローに入った上田でまず三角形ができる。そこへ前線から流れてきた山本を加えたひし形が生まれた。ひし形で金沢の3選手を囲むことで数的優位を作る。徳元・三村・上田のパス交換でタメを作りながら、マークがずれる瞬間を伺う。

金沢戦 前半23分 ①

 左利きSBの加入によるメリットと言える徳元から山本へ斜め前への一個飛ばしのパスが出る。このプレーによってひし形の内側にいる金沢の選手の体の向きはひっくり返り、パスを受けた山本に視線が集中する。この時、山本は金沢のCBを引き連れているため、背後のスペースを空けた。

金沢戦前半23分 ②

 山本がサイドに流れながら、キープ。金沢の14番と4番の注意を引き付けた。その瞬間、三村が内側を走り、裏のスペースへ侵入。山本からのパスが通ったが、フィニッシュまであと一歩のところまで迫った。

金沢戦 前半23分 ③

 攻撃において相手の体の向きを変えるというのは大事なことではないだろうか。ボールとマークする選手を同一視野に入れながらディフェンスするというのが守備の原則の中にある。そこで、パス交換や移動によって体の向きを変えたり、目線を変えることで相手の背中を取ることができる。人間には後ろに目はついていないため、対応は難しい。シュートまで持っていくことはできなかったが、複数の選手が関わり、連動した崩しができたシーンだった。


均衡を破ったセットプレー

 コーナーキックが8本もあったがこの日は強い風が吹いていたため、上田康太のキックはゴールキーパーに直接キャッチされることが多かった。しかし、コーナーキックを獲得し続けることで上田の左足は研ぎ澄まされていった。
 「スコアレスドローで終わるのか。」そんな空気が流れた後半35分。スタジアムに駆けつけた1万2千人を超える観客が待ちわびた瞬間が訪れる。
 この日配布されたタオルを回しながら、声援を送るサポーターを背にした”キックの名手”上田がゴール前に放物線を描いたボールを蹴った。
 弧を描いた美しいボールにニアサイドでいち早く反応したのは、金沢の攻撃を跳ね返し続けた濱田。頭の先でこするようにして、ゴール前に落とした。
 濱田が触ることで軌道が変わったボールに唯一反応したのは”岡山のエースストライカー”イ・ヨンジェ。身体を投げ出しながら、脚を目一杯に伸ばし、足先でゴールに押し込んだ。
 スタジアムは歓喜の渦に包まれ、1点を守りきり開幕戦を勝利で飾ることができた。

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