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※仮想発電所(VPP)ビジネス

「仮想発電所」東電・関電が参入 脱炭素の切り札に

家庭や事業所にある発電設備などをまとめて制御する「仮想発電所(VPP)」がビジネスとして動き始めた。新たな電力の取引市場が4月にでき、東京電力ホールディングス(HD)や関西電力が参入。ディー・エヌ・エー(DeNA)など異業種も参入を狙う。太陽光などが抱える発電量が安定しない弱点を補う役割があり、脱炭素の切り札として期待される。

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固定価格買い取り制度(FIT)が2012年に始まり、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが各地にできた。蓄電池の普及も進む。VPPはこれらを人工知能(AI)などで一括制御し、一つの大規模発電所のように電力を制御する。

16年度から経済産業省主導で40以上の実証事業が立ち上がったが、多くは実際に機能するかどうか一時的に実証するだけにとどまっていた。

今年4月に「需給調整市場」が立ち上がり、VPPが本格的に事業化できる環境が整った。太陽光など再生エネ発電の誤差を調整し需給を一致させるための「調整力」を取引するのが同市場だ。具体的には、電力網の供給量が足りなければVPPから放電し、電力消費が供給を上回っていれば提携工場などに節電させることで収入を得る。

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家庭などの太陽光を地域の需給調整に活用していく。
関電は6月に同市場に参入した。昭和電工と提携し、同社の龍野事業所(兵庫県たつの市)にある自家発電設備を使うことで、電力会社が供給する電力の消費を1千キロワット分抑え、収入を得た。関電の金内由裕マネジャーは「顧客が既に抱える設備から電力を確保するためコスト競争力は十分ある」と話す。

関電は16年度から複数のVPPの実証事業に参加してきた。18年には住友電気工業や日産自動車と60台の電気自動車(EV)「リーフ」などの電池の遠隔制御を検証。蓄電池や発電設備を活用するためのノウハウをためてきた。今後は複数の企業とVPPを形成し、各社の発電設備から集めた電力をまとめて市場で取引していく予定だ。

東電HDも5月に同市場に参入した。子会社の東京電力エナジーパートナーが、三菱マテリアルが筑波製作所(茨城県常総市)に持つ蓄電池を活用し、余った容量を充放電させて取引した。

5月以降、東電のVPPの枠組みに東京ガスや関電工など4社が新たに参画している。同社の事業所など10カ所にあるLPガス発電機も活用するなど供給力を高める。子会社の東京電力パワーグリッドの吉村大輔氏は「需給調整の依頼がきたら、10秒程度で供給できるシステムも開発しており、今後は細かい変動にも対応できる」と話す。

異業種企業が参入を狙う動きも出てきた。DeNAは蓄電池やEVなどを一括で管理するため、持ち前のAI技術で蓄電量や発電量などを予測するシステムの提供を目指す。NECも自社の蓄電池を活用し、10月以降に東電のVPPに参加する方向で検討している。

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政府が50年に温暖化ガス排出量の実質ゼロを掲げる中、VPPは脱炭素社会の実現に向けた切り札として期待が高まっている。

これまで電力の需給バランスを保つ役割は主に出力の加減が容易な火力発電が担ってきた。だが脱炭素の潮流の中、火力の新設が難しくなり休廃止も進んでいる。

一方、19年度の発電量における再生エネ比率は18.1%と5年前の14年度(12.5%)から5ポイント以上増加。政府は50年までに50~60%に高める目安を示す。ただ、太陽光や風力の発電量は天候の影響で不安定だ。火力削減と再生エネ拡大を進めながら電力の需給バランスを保つには、各地にある電源をVPPでまとめ、需給の調整役として活用する必要がある。

VPPに詳しい日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事は「脱炭素にカジを切るためには、VPP技術は欠かせない」と強調する。富士経済の予測では、VPPや電力需給調整事業の市場規模は、30年度に629億円と20年度の9.5倍になる。

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再生エネを主力電源としつつ、大規模な停電リスクを減らすため、できる限り再生エネをVPPで運用していく必要がある。それには、発電量の過不足をVPPの枠組みの中で解消させる技術の確立も課題だ。

KDDIやJパワーが出資するエナリスは、戸田建設や東邦ガスなど計17社が持つ太陽光や風力、火力発電所などを連携させる実証実験を始める。総出力は液化天然ガス(LNG)火力発電所の発電機1基分に相当する約57万2000キロワットに達する。

再生エネの発電量を高い精度で予測したり、複数の発電所をまとめて出力の変動を減らしたりする技術などを検証する。全体で発電量の誤差を少なくして、事前の計画通りに電力を供給・販売できるようにする狙いだ。

※欧州で普及先行、家庭設備の制御が課題
VPPの活用は欧州などで先行している。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルはドイツなどでVPP事業を展開。独VPP大手のネクストクラフトベルケは原子力発電所8基分超にあたる計850万キロワットのVPPを展開し、欧州の9地域で需給調整市場に参加している。電力大手の伊エネルグループも欧米を中心に約15カ国で事業を手がける。

欧州以外では、オーストラリア電力大手のAGLエナジーが太陽光発電や蓄電池を制御してVPPを構築している。VPPに参加した顧客は太陽光の導入費用などが安くなるなどのメリットを得られる仕組みだ。

欧州の場合、洋上風力などの再生可能エネルギーが日本より普及し、発電量における再生エネ比率が4割前後の国も多い。不安定な再生エネ発電のバランスを取る必要があるうえ、電力の自由化も進んでいることからVPPが発達してきた。

一方の日本。再生エネ発電の拡大や電力システム改革などを経て、VPPがビジネスベースでようやく本格化する。工場などの発電設備を活用する技術導入では欧州に遅れたが、家庭用設備の制御に向けた技術開発は欧州も途上だ。今後、この分野で日本が世界をリードできる可能性もある。

関西電力や東京ガス、パナソニックは全国に点在する家庭用燃料電池「エネファーム」3千台の活用を検証する。専用通信でガスから電力をつくる量を制御する技術の確立をめざす。

VPPの普及には電力をつくるだけでなく、ためる蓄電池の広がりも必要だ。補助金を頼りに蓄電池の出荷台数は増え、今後は蓄電池代わりになるEVの普及も見込まれる中、価格の引き下げも欠かせない。VPPへの参加に見合う報酬が得られるなど、家庭や中小企業もVPPに参加しやすい環境を整えることも求められる。







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