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アベノミクス失敗の原因は、日本人の経済的鬱である。

参議院選挙の争点のひとつに、物価高がありますね。

この物価高、もちろんロシア・ウクライナ戦争も原因ですが、
アベノミクスが掲げた「異次元の金融緩和」によって
日米の金利差が大きく開いたことによる円安も、
大きな要因だと言われています。

野党はこの物価高を「岸田インフレ」と呼んで、
なんとか岸田首相にアベノミクスの見直しを迫っています。

日本は25年も賃金が上がっていない
世界で唯一の国ですから、
その間の経済政策がまちがいだったことは確かでしょう。

では、いったい何がまちがいだったのか?
私はそれを「日本人の経済的鬱状態」だと考えています。

そのことについてご説明しますね。

今の不景気の始まりはなんだったのか。
それはバブルの崩壊だと私は思っています。

バブルの崩壊が日本人にもたらした本当の意味は、
単に経済的な破綻が起こったということだけではありません。

日本のバブルは「土地バブル」だったわけですが、
あのとき、日本中の銀行が土地の価格を上昇させるために
借りる気がない人にまで、うまい口車にのせて
どんどんお金を貸していったんですね。

民間銀行による貸付とは、市中への通貨発行ですから、
日本中にお金が溢れたわけです。
しかし、バブルは一夜にして崩壊しました。
理由はいくつかあるのですが、とにかく銀行はある日を境に
手のひらを返したように貸し出したお金を今すぐ返せ!と
債務者にせまったわけです。

そのことで身ぐるみ剥がれ、自殺した人もたくさんいます。

いわゆる銀行による「貸し剝がし」ですね。
これによって日本の市中から200兆円のお金が
一気に姿を消したと言われています。

バブルに浮かれ、ジャパン・アズ・ナンバーワンに浮かれていた日本は、
一気に氷河期に入ったのです。

リーマンショックを見ればわかるように、
通常、大きな経済破綻が起こったとしても、長期的に見れば、
また回復していくと思われています。

しかし、日本のバブル崩壊は、日本人の心の奥底に、
深い深い傷を残したと思うんですね。

それは、「浮かれてはいけない」とか、「無駄づかいはいけない」
「堅実でなければいけない」という傷です。
「二度と銀行に借金してはいけない」という深い傷です。

日本人はバブルという躁状態から一気に鬱状態に入った。
昨日までの好景気が嘘のように崩壊し、
甘い誘惑は二度と信じまいと思った。

それはまるで、戦前の軍国教育が、敗戦とともに一気に覆され、
国の言うことは二度と信じまいと国民が思ったことと似ています。

日本人は、がらんどうのバブルという虚像に狂っていたことを猛省し、
同時に、経済的に完全に燃え尽きたのです。真っ白に。

まるで「あしたのジョー」のラストシーンのように。
戦う気持ち、野心、そういうものが社会から根絶されたのです。

ただ、安定と堅実さを求めるようになったのです。

ここで、アベノミクスがどんな経済政策だったか、
再確認してみましょう。

1異次元の金融緩和
2機動的財政政策
3成長戦略

の基本方針を「三本の矢」と言っていましたよね。
ひとつずつ説明します。

<1異次元の金融緩和>

これ、意味がよくわからない人が多いと思います。
簡単に言うと、
日銀が民間銀行が持っている国債をどんどん買い上げることで
その代金として通貨をたくさん発行し、銀行に渡すのです。

そうすると金利がさがって、銀行はお金を貸し出しやすくなる。
ビジネスをしたい人は銀行からお金を借りやすくなる。
そういうことをしたんですね。
こうすれば、「よっしゃ!銀行から金借りて、ビジネスやるぞ!」と
みんなが動きだすと思ったわけです。

ところが、金利をほぼゼロまで下げたのに、
誰も銀行に金を借りに来なかったわけです。
借りに来てくれさえすれば、市中にお金が出回るように、
銀行にたくさんお金をもたせたのに、
その甲斐もなく、お金はただ日銀当座預金口座に
ブタ積みされるだけになってしまいました。

どうしてか?
その借金は返さなければいけないものなので、
これから経済が成長しそうな展望がなければ借りられませんよね。

銀行に身ぐるみ剥がれることを恐れる日本人は、
もう銀行からお金を借りたくなかったのです。

<2機動的財政政策>

金融政策と財政政策のちがいがよくわからない人は多いと思います。
簡単に言うと、金融政策は日銀がやるもので、
通貨をどれくらい発行するかとか、金利をどれくらいにするか、
という「お金の準備」の政策です。

それに対して財政政策とは政府(国)が、
自分でお金を使うことです。

国がお金を使うというと「無駄遣い」と思ってしまいますよね。
でも、それはまちがっているんですね。
国がお金を使うというのは、国が国民に仕事を頼んで、
その代金を国民に支払うということですから、
それは国による通貨発行なわけです。

景気が悪くて、民間企業や民間人が
民間銀行からお金を借りることで行われる通貨発行に頼れないとき、
つまり市場原理だけでは経済が回らないときには、
国がお金と仕事を同時につくりだして、それを国民に渡してあげるんです。

それを財政政策とか財政出動と言います。公共事業とも言いますね。
こうすることで、国民は個人としては返す義務のない
国の通貨発行によるお金を手に入れ、
経済活動を活性化することができます。

ちなみに、コロナ禍で配られた10万円の給付などは、
仕事を伴わずにお金だけを国民に渡したものです。

国からの通貨発行は「借金」という呼び方をしているので、
財政赤字と呼ばれています。

先ほど「個人としては返す義務のない」と書きましたが、
それを税金で返せ!というのが、「財政の健全化」です。
国が発行した通貨を返して、銀行が作った通貨だけにしろ、
というのが「財政の黒字化」と言われているものです。

しかし、国が通貨を発行することは当たり前なので、
基本的に財政は赤字であることがノーマルなんですね。
そこは忘れないでください。

アベノミクスは当初、この財政政策を強力にやろうとしたのです。
そしてこれは、デフレ対策としては正しい。
第二次安倍政権になりたてのとき、財政政策は実施されました。
そして景気は少し上向いたのです。

しかし、「財政の黒字化」を至上命題にしている財務省が、
そこでストップをかけ、財政出動をやめさせたのです。
財政政策は民間経済を動かすためのセルモーターの役割を果たすものですが、
そうなる前にやめさせ、金融緩和1本だけで
なんとかしようとしたのです。

それが、アベノミクス失敗のテクニカルな要因です。

<3成長戦略>

これは民間が新しい分野に野心的にビジネスを展開していくことで
経済を再活性化するということですね。

ストーリーとしては、まず財政出動によって
国主導で経済を動かし、それが呼び水となって民間経済が動き、
民間が成長戦略を実行しはじめるときに、
金融緩和が功を奏する、というものだったわけです。

しかし、先ほども書いたように、日本人はバブル崩壊後の経済鬱ですから、
リスクを極端に避ける性質になっています。
競争より安定が欲しい。一攫千金より地道でいい。
なにせ燃え尽きているのです。真っ白に。

アベノミクスは設計上は正しかったのですが、
そのときの日本人のマインドに寄り添っていなかったことと、
財務省の判断ミスによって失敗したんですね。

さて、最近、日本は25年とか、30年も不景気だと言います。
この「期間の長さ」が意味するところを、
我々はもっとちゃんと認識すべきなのですね。

あの東北の震災による原発事故のあと、福島沿岸部の町からは
人がゼロになりました。
6年とか、7年経って、町に人が帰還してみると、
あることがわかりました。

毎年やっていた地域のお祭りを再開しようにも、
やり方がわからないのです。
我々の日常というのは、毎日やっているから、
毎年やっているから、という理由だけで、ノウハウが蓄積され
継続できているものがたくさんあります。

そのことに普段は気づかないわけですけどね。

で、7年も中断していると、もうみんな忘れてしまうのです。
できる人材が失われるということですね。

これと同じことは行政でも起こります。
行政が仕事を民間に委託してしまうと、
その仕事をこなせるノウハウが行政の中から消えてしまいます。
そうすると、もういちど行政でやろうとしても、
どうやればいいのかわからなくなる。

いちど民営化すると再公営化ができにくくなる由縁。
これらのエピソードが語るものを覚えておいてください。

もうひとつ別のエピソードをご紹介しましょう。

明治時代につくられた、教育勅語というものをご存じでしょうか。
日本は天皇の国家であって、
いざとなったらお国のために命を差し出そう、ということを
小学校で暗唱するためにつくられたものです。

1890年に発布されて、戦争が終わった1945年まで55年間、
小学校で毎朝、子供たちが暗唱していました。

55年という長さは、人間で言えば3代になります。
親も子も祖父も暗唱していれば、
もうこの洗脳は完全に浸透しますね。

こういうことが日本の軍国教育を当たり前のものとし、
戦争に負けた時に、一気に覆されるまで、
誰も信じて疑わない状況を生み出していたわけです。

同じ状況が長い期間つづくと、人は完全にその状況に慣れてしまって、
そうでない状況が存在することさえ、理解の範疇から外れてしまうのです。

さて、冒頭でも書いたように、日本は30年もの間、不況です。

30年も不景気がつづくと、日本人の辞書の中から好景気は消えます。
現代を生きる日本人は、景気がいいという状態を想像もできないし、
どうすれば景気が良くなるか、ということを考えることもできません。

ある状態があまりにも長くつづくことで、
別の状態に変わることが想像力の中から完全に消え去る。

経済に関してだって、同じことが言えるわけです。

今の日本人には「思い出す好景気の記憶」がないわけですから、
景気は良くなったり悪くなったりするものだ、という常識の中にある
経済合理性というものを当てはめられても、
日本人には合致しないわけですね。

これは、もしかするとMMTの理論に準拠しても、
ダメかもしれないことではあります。

心の問題だからです。

今の日本人に自己肯定感が低かったり、
自分の一票では何も変えられないと思ったり、
すべてに関してあきらめ、シラけていることには、
理由があるのです。

今の日本人が、一生懸命頑張る人を冷笑し、
文句は言うが自分では何もしない、
誇りのない人間になったのには経緯があるのです。

経済的に燃え尽きた日本人を、もういちど立ち上がらせるか。
あるいは経済とは別の指標で、新たなフィールドを開拓するか。

どちらにせよ、今の日本人に対する処方箋は、
正しく処方されなければいけないと思っています。

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