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敢えて「金持ち父さん」を否定してみる

「金持ち父さん貧乏父さん」という書籍をご存知でしょうか。

初版はだいぶ以前のものだと思いますが、
最近改訂版が出版され、また話題になったようです。

内容はタイトルのままですが、
金持ちになるにはどうすればいいのか、ということを説明している本で、
そこでは現代の成長資本主義の冷酷な仕組みを理解し、
その中で「本当の金持ち」になる方法を伝えています。

この手の本は、実はとてもたくさんあると思います。
普通の人が、普通に暮らしているだけでは
到底手が届かないような富を手にした人、
成功を手にした人というのは、いったいどのような考え方や、
行動をしているのか、ということを説いた本です。

私が思うに、そこで語られていることには、大概の場合、矛盾があり、
それは資本主義そのものが抱える矛盾である。
今日はそんなお話です。

「金持ち父さん」語られていることは、ある意味、とてもシンプルです。
この資本主義という仕組みの中で、本当の金持ちというのは
資本家や投資家のことであり、
それ以外は真の金持ちではない、ということ。

そして、その立場になるなら、
すなわち人生の目的を「金持ちになること」に絞ったなら、
あらゆる判断、行動を、
その目的達成のために合理化せよ、ということです。

これ、本当にその通りだと思うんですね。
我々は資本主義経済の中で毎日暮らしているのに、
その資本主義の本当の仕組み、本当の姿から目を背けています。

少なくともそういう人が多いです。

そんな中で、我々労働者、つまり「持たざる者たち」は、
少しでも暮らしを安定させ、少しでも幸せに暮らせるようにと、
毎日あくせく働いているわけですよね。

この資本主義社会の中で、本当の金持ちは「持つ者」です。
なぜなら、資本主義とは資本家が金を元手に
金を増やすという仕組みであり、
労働の対価として報酬を得るものは、社長であっても経営者であっても、
所詮、本当の金持ちではない、ということなんですね。

つまり「不労所得を得られる側になれ」ということなのです。
労働で手に入れた金は、とにかく資産を生み出すものに使え。
消費するだけのクルマも住宅も、絶対に買ってはいけない。

それが、「向こう側」にいく方法なのだ、と、
この本は説いているんですね。

まったくその通りだと思うのですが、
しかしながら、私はちょっと疑問がわくのです。

例えば、ダイエットなどの本は、どんな人でもその気になれば
ちゃんとダイエットできる方法を説いているのではないでしょうか。

アンガーマネジメントだろうが、マインドフルネスだろうが、
それらはすべて、本人がちゃんと実施すれば、
誰でもその効果を享受できうるものだと思うんですね。

しかし、「金持ち父さん」はちがう。
どこがちがうのか、というと、
これは「不公平な仕組みに気づけ!」と言っていて、
この世には人を使うものと使われるものがいて、
使う側にならなければいけない。この仕組みに気付いて、
人を使う側になれ!と言っているんですね。

どこに違和感を感じるか?というと、
今の資本主義の仕組みはもともと
「全員を金持ちにはできない」という仕組みだ、
という現実を受け入れた上で、
気付いていない人間を利用しろ!と言っている部分なのです。

これは、実はこの本そのものの批判ではなく、
まさしく資本主義そのものへの批判なのですが、
いま、我々が利用しているこの仕組みは、
そこに参加する全員を豊かにすることはできない仕組みなんですね。

しかも誰かが豊かになるためには、
誰かが出し抜かれたり、負けたり、搾取されなければならないという
めちゃくちゃ切ないものなのです。

その仕組みを理解させてくれるところまでは
本当にありがたいと思うのですが、
やはり私は、その仕組みをそのまま是とすることはできないんですよね。

だって、不労所得で稼ぐとは、
ものすごい数の労働者が働くことによって初めて可能になるのですから。

しかも、この手の本が、そうですね、もう20年ほど前、
これからどんどん搾取していくぞ!というときならまだしも、
ここまで世界中で貧富の差が拡大して、
資本主義の弱点が顕在化し、
人類の存続のために「誰も取り残さない」を本旨にした
SDGsが叫ばれるこの時代に、
この本や、それに類する本で語られている内容というのは、
ものすごく古い概念だと思うんですよね。

いま、時代は大きく変化しています。
人類は行き過ぎた資本主義の弊害をこれでもか!と見せつけられています。

それは地球環境においても、
人間の物理的、あるいは精神的な面においても、
つまりあらゆる面において限界に到達している。

そんな中で、我々は本当に持続可能なあり方がどんなものなのか、
という問いを人類全体で考えていかなければいけないフェーズなのです。

教育の現場がアクティブラーニングとか、クリティカルシンキングとか、
つまり正解のない問いへの答えを、人との協働で導き出すという
今までにはない方向に舵を切っているのも、
今までまだ誰もみたことがない
解決策を導き出せる人材を育成するためです。

つまりこれから本当に必要になる「考え方」とか、
「課題解決方法」というものは、
その辺りのビジネス書籍に書いてあることではないと思うんですよね。

もちろん、まだまだビジネスの世界では
「金儲け主義」が最後の足掻きをするのでしょう。
しかし、いくばくかの延命ができたとしても、
本質的には「今までの資本主義」は寿命を迎え、
役割を終えていくことは確実だと思います。

今までの資本主義は、
人間の欲望オリエンテッドな仕組みへとどんどん進化しました。
だからこそ、次の仕組みはその弊害に対する大いなる反省に基づき、
持続可能性を第一義に置くことはまちがいないでしょう。

それを「我慢」としてとらえるのか、
「新しい楽しみ方の模索」としてとらえるのか。
そこが運命の分かれ道だと、私は思っています。

新しい考え方について、今、本の原稿を書いています。
出版のあては、ないのですが(笑)

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