【じゃぱねっとアドカレ】平和はカレー鍋の底にある
2023 年は、カレーに目覚めた一年だった。
残業当たり前のハード現場から、定時退勤安定のぬるま湯現場に配置換えされてからというもの、生活の刺激が著しく減ってしまった。ハードワークに戻りたいとは思わないけれど、身体が勝手に刺激に飢えている。刺激が欲しい。「あーしんどい!!」と生き生き叫びたい。そんな欲求が、高倉の認識の外側でじりじりと積もっていたらしい。
突然、「カレーが食べたい!!」という衝動に襲われた。カレー、カレーだ。あの独特の香辛料の香り。嗅いだ瞬間に舌いっぱいにカレーの味が思い出されて唾液がこぼれてしまいそうになる、あの香り。あの味。辛ければ辛いほど良い。舌が焼けるような刺激が欲しい。刺激、刺激だ。激辛カレーを頬張って、「あー辛い!!」と叫びたい。
そういうわけで、高倉がまず訪れたのは無印良品だった。無印良品にはおいしいレトルトカレーが揃っているのだと、風の噂に聞いていた。噂は正しかった。無印良品って凄いんですね、大量多種のレトルトカレーがおしゃれなかんじに陳列されている。カレーって書いてないカレーもある。ブラウンマサラ?ゲーンバー?マッサマン?君たちは本当にカレーなのか?
無印良品は無知な高倉にも優しかった。カレーはカレーコーナーに固めてくれていたので、パッケージにカレーと書いていなくても取り敢えずかれーであるということは分かった。加えてパッケージには、唐辛子のマークで辛さを示してくれていたので、どれがどれくらい辛いのかも分かる。有難い。取り敢えず一番辛そうなグリーンカレーと、分かりやすくカレーのビジュアルをした牛すじカレーを買った。
高倉の家には鍋が無いので湯煎はできない。皿に開けてレンジでチンしてから、あらかじめ炊いてあったご飯に牛すじカレーをかける。
いやめっちゃめちゃ美味しい……!!!!
これだ、この刺激を求めていた。豊かな香辛料の香り。間違いないカレーの味。とろとろの牛すじ。スパイスが舌をぴりぴり叩く。熱くもないのに汗が噴き出す。お茶をぐいと呷って、またカレーをがっつく。手が止まらない。好き。好き。好き!!
グリーンカレーはその翌日に食べた。こちらはスープカレーらしかったので、スープ用のカップに開けて、ご飯は別途お茶碗に盛る。実は高倉、グリーンカレーを食べるのはこの時が初めてだった。香草が強く香り、これはココナッツミルクなのだろうか、さらさらした口触りながらコクがあって美味しい。美味しいのだが、それはそうと辛い!!!超辛い!!!舌が焼けそう!!!お茶が足りない!!!ご飯も足りないかも!!!おかわりあったっけ!??
「からーい!!!」と叫びながら、ぺろりと完食した。暫し、ほう……、と愉悦に浸る。心地いい充足感が全身を満たしている。カレーってこんなに、こんなに良いものだったんですね。合法ドラッグと言っても過言ではないのでは?
以降、定期的にカレーを食べる生活を送っている。無印良品のカレーは一食300円強と若干高級感があるので、業務用スーパーでたたき売りされているレトルトカレーで場繋ぎしつつ、ぜいたくをしたい日に無印良品に寄るようになった。
そしてふと、立ち止まる。高倉はすっかりカレーが好きだが、レトルトカレーで満足していていいのだろうか、と。
カレー好きを自称するからには、もっとカレーに拘った方がいいのではないだろうか。少なくとも、思考停止でレトルトカレーを買い漁るばかりでは、いずれカレーも日常になってしまう。カレーから刺激を得続けるには、より積極的にカレーを求めなければならない。
というわけで、手始めに自分でカレーを作ってみることにした。初手から香辛料に拘るのは無謀なので、一旦市販のカレールーと野菜を買い込む。カレーを作ったことが無かった高倉、カレーに何が入っているのかよく知らない。カレーに入れる肉って鶏肉?豚肉?
一式を買った後で、高倉は思い出す。高倉の家には鍋が無い。
カレーは鍋でコトコト煮込むものだというのに、鍋が無い!?そんなぁ!!鍋が無ければカレーなんて作れない。高倉はカレー好きのスタートラインにすら立てていなかったのだ。悲しい。
ここで衝動のままに鍋を買えばよかったのだろうが、面倒になってしまった高倉は、インターネットを開いてフライパンでも作れるカレーを調べます。怠惰だ。とっとと鍋を買え。収納スペースがない?知るか、買え。
インターネットの知識は素晴らしいので、フライパンでも作れるカレーのレシピもたくさん用意されていた。有難い。その中でも、トマト缶を使って作るキーマカレーがおいしそうで簡単そうに見えたので、これにチャレンジすることにした。何事も導入は簡単な方がいい。
レシピを書きだせるほど丁寧な料理をしていないので、ざっくりとステップだけ書いてみます。よかったらつくってみてね。
トマト缶ぶち込みキーマカレー
材料
玉ねぎ半分
じゃがいも一個
にんじん半分
ひき肉たくさん
カレールー半分
トマト缶一個
水適量
作り方
野菜を全部頑張ってみじんぎりにする
野菜とひき肉を炒める
火が通ったら、トマト缶を煮込む
カレールーと水をぶちこむ
ルーが溶ける
できる!
美味しい!!!!!!!
キーマカレーも今までの高倉の生活にないものだった。いやぁキーマカレー、これも良いものだ。カレーといえば大きい具材がごろごろ入っているイメージだったが、鍋なんか無くともカレーはできる。火もすぐ通るし、野菜も複雑な切り方をしなくていいし、短時間で完成する。キーマカレーは、カレーを作る人間に優しい。
カレー、実に良い文化だ。カレーを好きになってから、カレーの種類にちょっとだけ明るくなったし、近所に思いのほかカレー屋さんがたくさんあることも知った。すき屋がカレーを取り扱っていることも初めて知った。世界はカレーに満ちている。カレーの刺激を求める人が、こんなにも沢山いる。
カレーに刺激を求めなければならないほど日常に刺激がないということは、つまり平穏平和ということだ。平和ほど喜ばしいことはない。無刺激の日常を有難く享受しつつ、高倉は鍋をポチろうかまだ悩んでいる。
じゃぱねっとアドカレに寄せて。素敵な企画を有難うございます。