ムサオのいるバー
ムサオのいるバーが滞在先から歩いてすぐのところにあって、その夜もひとしごとおえた(ような気がした)のでビールでものみにいった。お店について入ると、いつものように「タカ!タカ!」といって握手をかわす。フランス人ってこういうところがあって、何度かあっていくうちにいつのまにか、こういった挨拶をするようになってくる。
カウンター席に座って、ビールをいただく。ハーフパイントで330円(ちなみに1パイントで660円ときっちりと倍になるので、東京のそれとはすこしちがった)。しばらく目の前の棚にならんでいるグラスやお酒を左から順番にながめた。なにも考えることもなく、1つひとつを頭のなかに入れては外にだしていく。そんな風にしてカウンターの席でビールをのんでいると、ムサオがはなしかけてくる。
「タカ、来週からしばらくムサオいない」
「お、バカンス?」
「うん。チュニジアにいく」
チュニジアと聞いて、僕の頭のなかの地図を広げてみる。どこだどこだ、右脳の横の方にあるマウスをつかってカチカチと、右にいって左にいってをくりかえすけれど、どこにあるのかがまるで検討がつかない。ムサオはいったいどこにいってしまうのだ。どこか遠くにいってしまうのか。
きくと地中海をはさんだ向こう側の海岸沿いにあるという。イタリアのシチリアから海をわたった、すぐそこにある国だった。
「故郷があるの?」と聞くと。
「故郷はアルジェリア」と答えがかえってきた。
アルジェリアはチュニジアのとなりだそうだ。ムサオはそんな遠くからきたのか!チュニジアは暖かいらしく、パリは雪も降って寒いので、いくのがとても楽しみだそうだ。バカンスに乾杯ということで2人でビールをのんだ。
ムサオとは毎朝、通学のたびに通りですれ違って、その度にいつも話かけてくれていた。そういうことがあることで、パリでの滞在というのが心地よく、安心して過ごせることができた。近くにこういう人がいるって、とてもありがたいし、それだけで街の印象ってかわってくる。
「ボン・ヴォヤージュ!」
♤ムサオは夜になると眠そうだ
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